第7話
戻ってくると、美鈴は眠っているようだった。肩にかかる毛布がかすかに上下している。家には連絡したのだろうかと思ったが、彼女のことだからそういうところは心配ないだろう。
俺も横になろうかと、クローゼットから予備の毛布を出していると、
「あ……駆くん……」
ごそごそいう音で目を覚ましてしまったらしい。美鈴が目をこすりながら頭をもたげた。
「ごめん。すぐ静かにするよ」
「いや……わたしこそ、もうおいとまするよ」
美鈴はゆっくり体を起こし、ベッドから下りて立ち上がった。とたん、その体がくずおれる。膝が床にぶつかる鈍い音が響いた。俺の部屋はフローリングむき出しで、絨毯も何も敷いてはいないのだ。
「美鈴!」
俺はあわてて駆け寄り、美鈴の二の腕をつかんで支えた。
「大丈夫か? 膝……痛くないか?」
「ああ。私が痛みに強いことは、君も知っているだろう? ……しかし、おかしいな。もう平気だと思ったのだが」
美鈴は弱々しく苦笑する。
「無理しちゃダメだ。今日は泊まっていったほうがいい」
一瞬の逡巡ののち、
「……すまない」
恐縮したような声が返ってきた。
「だったら……ちょっと待ってろ」
美鈴が泊まるときに使っている、クリーム色のバスロープを持ってきて渡した。しばらく後ろを向いていて、
「もう、いいよ」
との声に振り返る。着替えを終えた美鈴が、ベッドに腰かけていた。床には、今まで身につけていた服が丁寧に畳まれて置いてある。
「横になりなよ」
「ありがとう……」
俺の勧めに、美鈴は再び身を横たえて毛布をかぶろうとした。が、その動きがふと止まる。
「君はどこで寝るんだ?」
「え? 俺は床でいいよ。この気温なら風邪も引かないだろうし」
「そんな……体を痛めてしまうじゃないか」
「一晩ぐらいどうってことないよ」
強がりではなく俺は言った。実際、受験勉強で遅くまで起きているときなど、床で数時間仮眠を取ることがあるのだ。
「……一緒に」
唐突に、美鈴の唇からそんな言葉がもれた。
「一緒に……寝てはくれないのか?」
「え?」
「それとも、酔っ払いと同じ布団は……いやかな……。しゃ、シャワーも浴びてないし、下着だって替えてないし……」
だんだん小さくなっていく声。
「そんなの全然……! だけど、狭くなるよ? 普段はともかく、こんなときに窮屈な思いをさせるのは……」
「わたしは構わない。言っただろう? 横になっていれば大して苦しくはないんだ。だから本当に、君さえいやでなければ……」
俺に断る理由などなかった。唯一不安なのは欲望に負けやしないかということだったが、酔いで体調を崩している女の子に無理強いするほど、俺の理性はもろくはないと思っている。
「じゃあ……」
俺が立ち上がると、美鈴は体を奥へ寄せた。その隣にもぐり込む。細い体を抱きしめ、背中をなでた。
「駆くん……」
羞恥の混じった、だが陶然とした声でつぶやき、美鈴は俺の胸に顔を埋めた。これも酒のせいなのだろうか、普段より素直――いや、普段が素直じゃないというわけではないのだが、何というか――甘えん坊な気がする。こんなふうになってくれるのなら、たまには酔わせてみるのも悪くないかもしれないなどと、不埒なことを考えてしまう俺。
すぐに、安らかな寝息が聞こえ始めた。こんなふうにしているときはいつも、眠ってしまうのがもったいないような気持ちに駆られるが、何だかんだで俺も疲れていたらしい。ものの十分もしないうちに睡魔に襲われ、意識がぼやけていった。




