第5話
最大のアクシデントは、閉会も間近というころにやってきた。
最初に異変が起こったのは、ゆかだ。
「うゆ……。何だか眠くなってきちゃったよ……」
しきりに目をこすり始める。
「ゆかったら、お子様なんだから。まだ9時前だよ」
香央里が笑ったが、言うやいなやあくびをする。
「雪子~。おっぱい揉ませろおっぱい」
雪子に抱きつく賢久。
「きゃ~、賢久先輩何言ってるんですか~」
あしらう雪子の声もどこか調子っぱずれだ。
「じゃあチューさせろチュー」
「チューなんて死語ですよ死語~。死んだあとじゃないですよ、死んだ言葉ですよ~」
「うわわわわん! かのじょいないりぇきいこーるねんりぇいのおれにみせつけないでぇぇっ!」
匡は呂律が回っていない。
――おかしい。
美鈴と俺は思わず顔を見合わせる。次の瞬間、俺はある想像に行き着いた。ピッチャーのジュースを、少しずつ自分のコップに入れて飲んでいく。ジュースは何度も注ぎ足されていて、俺は新しいものには口をつけていなかったのだ。
そして――自分の想像が的中したことを知った。
「駆くん、まさか……?」
美鈴も同じことを考えているらしく、困惑顔で俺を見つめる。俺はうなずいてみせて、
「マスター!!」
厨房に向けて大声を放った。
「ど、どうしたんだい駆くん?」
マスターが顔を出す。
「これ、お酒ですよお酒!!」
「な、なにぃ!?」
これはマスター。
「ええーっ!!」
これは雪子、賢久、香央里、匡。美鈴は気づいていたし、栞は何事にも動じない。ゆかは――すでに夢の中だった。
「あー……ミネラルウォーターと焼酎間違って割っちゃったよ……」
気まずそうに鼻の頭をかくマスター。
「どこをどうしたら間違えられるんですか!」
あきれ果てたが、飲んでしまったものはどうしようもない。パーティーはあわただしくお開きとなった。
何とか全員を立ち上がらせ、店の外に連れ出したものの、ゆかはまだ半分寝ているし、雪子と賢久は再びじゃれ合い始める。匡はさめざめと泣き出し、香央里はそんな匡を寝ぼけ声で叱咤しているありさまだ。
「じゃあ、俺がみんなを送りますよ」
俺が言うと、
「いや、君だけに負担をかけるわけにはいかない。わたしも手伝うよ」
美鈴が名乗り出た。
さすがに責任を感じたのか、
「駆くん、わたしも」
マスターもあとに続く。
「安心しなさい。送り狼になるまたとないチャンス、なんて思っていない」
一言多かったが――。
「わたしも……」
最後に栞が声を上げる。結局、俺がゆかと香央里を、美鈴と栞が雪子と賢久を、マスターが匡を送っていくことになった。普通なら、女の子に送り手を任せるのはちょっと心配だが、陰陽師と魔術師という二人なら向かうところ敵なしだろう。
俺の家から遠い香央里の家を先に回り、次にゆかの家。香央里のご両親、ゆかのおじさんとおばさんに頭を下げる。四人とも、笑って許してくれたのがせめてもの救いだ。
帰宅するやいなや、俺はベッドに腰を下ろした。
散々なことになっちまったな……。
思わずため息がもれる。あとで美鈴に謝らなくては――。俺のミスではないとはいえ、自己嫌悪に陥ってしまう。といって、今日のために店を貸し切り、あれこれ骨折ってくれたマスターに腹を立てるわけにもいかない。
こうしていてもしかたがない。気分転換にシャワーを浴びようと、立ち上がったときだった。ドアチャイムの音が響く。
誰だろう? 玄関に向かい、ドアを開けた俺ははっとして立ち尽くした。




