第4話
全員のケーキ皿が空になると、
「それではお待ちかね、プレゼントターイム!」
雪子が声を張り上げ、こぶしを突き上げた。
「プ、プレゼント? そんなものまで?」
おろおろと周りを見回す美鈴。
「誕生日っていったらプレゼントですよ! 当たり前じゃないですか!」
雪子が言い、みんなこくこくとうなずく。
「め、面目ない……」
美鈴は目を伏せた。
「ふたりずつチームに分かれて、プレゼントを選んでみました」
雪子がぴんと人差し指を立て、満面の笑みで言う。
「まずはゆかさん、香央里さんチーム!」
ゆかが、赤いリボンのかかったピンク色の袋を取り出し、美鈴に差し出す。
「開けてみてください」
香央里に促され、美鈴は丁寧にリボンをほどいた。中から出てきたのは、緩衝材に包まれたふたつの物体。
「俺も手伝っていいですか?」
「ああ、お願いするよ」
ふたつのうちひとつを手に取る。この企画は知っていたが、実はプレゼントの中身は知らない。みんなが何を選んだか楽しみだ。「楽しみ」より不安が優るメンバーもいるが――。
二人で緩衝材をはいでいくと、現れたのは――夫婦湯呑み。白地に紅葉を散らした可愛らしいデザインで、いかにもゆかが好みそうだ。
「最初はマグカップにしようと思ったんですけど、美鈴先輩ならこっちかな、と思って」
小首をかしげ、照れくさそうに笑うゆか。
「ありがとう。大切にするよ」
「俺もだよ、ゆか」
俺たちが答えると、ゆかは「うん!」と深くうなずいた。
「お次は栞さん、匡さんチーム!」
匡か――。やや不安だが、相方が栞ならストッパーになってくれただろう。
「はいはーい!」
ノリノリの匡が、薄くて小ぶりの、空色の袋をうやうやしく差し出す。中身は――ブックカバー。皮製だろう、色は黒で、シンプルだが上品で丈夫そうだ。
「これを選んだのは栞くんだろう?」
美鈴が訊く。
「……どうしてわかりましたか?」
不思議そうに目をしばたたく栞。いや……誰でもわかる。
「だってだって、俺が選んだものことごとく却下しちゃうんですよ!」
匡が身を乗り出して訴えたが、
「うるさい」
栞に言われ、香央里にはひじ鉄を食らわされ、あっけなく座り込んでしまった。
「最後は賢久先輩、それからこのわたし、雪子のチームでーす!」
……来た。いちばんの不安材料。
「待ってました!」
賢久が黄色い袋を掲げる。今までの中でいちばん――賢久の顔が余裕で隠れてしまうくらい大きい。美鈴は受け取ると、
「……柔らかい」
つぶやいて、袋の口を留めていたワイヤータイを解き始める。現れたのは、大きな薄茶色のぬいぐるみだった。が、一見何の動物かわからない。頭と目が大きくて、体が平べったくて、尻尾はキツネかタヌキのそれのようで――。
「雪子……これ何だ?」
思わず訊いてしまう。
「もうっ、勉強不足ですよ、駆先輩。ももんがです、も・も・ん・が☆」
「ももんが……? ああ、あの空飛ぶリスみたいな……?」
犬や猫やクマならわかるが、なぜそんな変わり種? 雪子らしいと言えば雪子らしいが。
「まあ、イメージとしては間違ってませんかね~」
雪子は、考え込むように目を上に逸らしつつもうなずく。美鈴に視線を戻すと、ぬいぐるみを抱き上げてじっと見つめていた。と、
「何て可愛いんだ……」
つぶやくなり、愛おしそうにそっと抱きしめる。
「雪子くん、賢久……ありがとう。何とお礼を申してよいやら……今夜から毎晩抱いて寝るよ」
「ダメですよ~。そんなことしたら、駆先輩が妬いちゃうじゃないですか」
唇をとがらせ、人指し指を振ってみせる雪子。
「雪子っ!」
俺は思わずうろたえてしまう。
「えへ☆ でも、喜んでもらえて嬉しいです。美鈴先輩は実は可愛いものが好き、っていうわたしの読み、当たりましたね」
「……雪子くんには敵わないな」
美鈴は笑って、袋をたたもうする。その手がふと止まった。
「まだ何か入っている」
俺の胸にこみ上げる、いやな予感。
美鈴は袋から「何か」を取り出した。小さな箱――。俺にはもう正体がわかってしまった。それをまじまじと見つめる美鈴は、たちまち耳まで真っ赤に染まっていく。
「賢久ぁぁぁっ!!」
店中に美鈴の怒号が響き渡った。俺は額を押さえてため息をつく。
「いやぁ、やっぱりひとつはこういう遊びもないと、面白くないと思いましてね~」
しれっと言って、賢久は頭をかいてみせる。
「どこが遊びだ! こ、これは立派なせくしゃる・はらすめんとだぞ!」
「でもほら、絶対使うもんじゃないすか。あ、それとももしかして中出……」
「賢久っ!!」
今度は俺が声を上げてしまう。ああ、今日何度目のツッコミだろう。
「なになに、何なの駆くん?」
ゆかが興味津々といったていでのぞき込んでくる。
「ゆかはいいから」
そんな彼女を俺は押し戻す。
「香央里ちゃん、気にならない?」
「……あたしは十分すぎるほど想像つくから」
そう言って、香央里は匡を横目で睨む。
「え? 何? 今回は俺何もしてないよ?」
匡はうろたえてきょろきょろする。その様子からして、今回のいたずらには本当に加担していないらしい。
そう、ぬいぐるみのほかに入っていたのは、例のゴム製品――。賢久にしては穏便な選択だと言えなくもないが、それ以外のあんなものやこんなものだと、美鈴には通じないと判断してだろう。そんな配慮をしてもらっても、喜ぶべきだとは思えないが。
「まあまあ、美鈴先輩落ち着いて。賢久先輩も、純粋な美鈴先輩をあんまりからかっちゃダメですよ」
雪子が両手を軽く押し出すようにして、二人をなだめにかかる。
「雪子くん! まさか君も……!?」
美鈴はきっと鋭い視線を雪子に向ける。
「えっ! わ、わたしは知りませんよ。信じてくださいよー」
手を組み、目をうるませてみせる雪子。
「だから、ね、わたしに免じて賢久先輩も許してあげてください」
「俺からも頼みますよ。せっかくの誕生日、怒ってばかりじゃつまらないじゃないですか」
俺も加勢する。怒った顔も可愛いけど、笑顔はもっと可愛い――なんて、人前ではさすがに口にできない。しばし眉根を寄せていた美鈴だったが、
「わかったよ。今日は特別だ」
不意に表情をやわらげて苦笑した。
「さっすが美鈴先輩!」
親指を立てる賢久。まったく調子のいいやつ、と思いながら、俺も口元をゆるめてしまう。
こうしてメインイベントも終わり、成功を喜んでいた俺だったが――。




