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第3話

 料理が7割方減ったところで(そのうちの半分は賢久が減らしたような気がするが)、マスターがパンパンと手を叩いた。

「ではお待ちかね。バースデーケーキを出すよー」

 マスターは、空いた皿をいくつか持って厨房に入った。戻ってきたその手には、ホールのショートケーキがのった皿。真ん中にはチョコレートのプレートが飾られ、白いデコペンで「お誕生日おめでとう 草壁美鈴さん」と書いてある。美鈴の前にそれを置き、赤、青、黄、緑のキャンドルを19本立てて灯をともす。

「わたし、電気消してきまーす」

 雪子が奥に引っ込んだ。間もなく店内の照明がすべて落ちる。キャンドルの温かな炎が暗がりの中に浮かび上がった。

「ハッピーバースデートューユー……」

 声をそろえて歌い、拍手。

「美鈴先輩、吹き消してください」

 俺は美鈴をうながす。

「わ、わかった」

 緊張した、そのくせ恥ずかしげな面持ちで腰を上げる美鈴。キャンドルに息を吹きかけるが、弱すぎてふたつしか消えない。

「ほらほら、もっと思い切って!」

 マスターが言う。

「はい……」

 美鈴はさっきよりは強く息を吹きかけた。それでも消えたのは4つ。

「美鈴先輩、赤い夜での気迫はどうしたんすかー?」

 からかうように言う賢久。

「って、ダメだろおい!」

 俺は身を乗り出し、抑えた声で注意した。美鈴を始め、ゆかと雪子もあわてた顔をし、香央里、匡、マスターはきょとんとする。栞だけがポーカーフェイスだ。

「ま、いいんじゃね? もうケリがついたことだし」

 賢久は悪びれず、手近にあったクッキーを口に放り込んだ。すでに腹が減ってきたのだろうか……。

「大勢に注目されるのは苦手なんだ」

 美鈴はちょっと賢久を睨みつけ、再び挑戦する。今度はすべての炎が消えた。ひときわ大きな拍手と歓声。マスターが照明を点けに行き、ケーキナイフを片手に戻ってくる。

「ええと、美鈴さん、駆くん、雪子ちゃん……」

 マスターは指折り数えたが、

「9人ですよ。マスターも入れて」

 雪子のほうが早かった。

「わたしはいいよ。うちに帰れば、いくらでもマイワイフのケーキが食べられるんだからね。それに9等分なんてやりにくい」

 マスターは笑ってケーキを8等分し、全員に配った。もちろん、チョコレートのプレートは美鈴のものだ。

「なぁ、俺のケーキいちばん小さくね?」

 賢久が眉を寄せ、匡に訊く。

「いや、俺のほうが小せーよ。交換しようぜ」

 互いのケーキを何度も見比べて言う匡。

「それより半分よこせよ」

「ええっ! 何でそうなるの!?」

 次元の低いやりとりを続けるふたり。美鈴はというと、一口一口噛みしめるようにケーキを食べ終えると、

「食べてしまうのがもったいないな……」

 残ったチョコレートをじっと見つめていた。その横顔を見ていると、「いつまでも取っておくわけにはいきませんよ」なんて正論を吐く気にはとてもなれない。

 俺は困ったような顔をしていたのだろうか。美鈴はふと俺のほうを向いて、

「子供みたいなことを言っているな、わたしは」

 微笑んだ。

「いえ……」

 俺はあわてて首を振る。そんな俺を見て微笑を深めると、美鈴はチョコレートをつまんで静かにかじった。

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