第1話
「駆くん、ドリンク向こうへ持ってってくれる?」
野菜の水切りをしているマスターが、俺に声をかける。
「あ、はい」
テーブルの上には、何種類ものジュースや、麦茶の入ったピッチャーが並んでいる。俺はまず二つを手に取った。
「それが終わったらサンドイッチ作るの手伝ってくださーい」
と雪子。
「わかった。ちょっと待ってろ」
ドリンクを運び終えると、雪子の隣に立ち、せっせとサンドイッチを作る。ハム、チーズ、卵、ツナ、ジャム。楕円形の平皿に、彩り豊かなサンドイッチが次々と並んでいく。
「何とか間に合いましたー」
うっすら汗のにじんた額に手の甲を当て、雪子がほっと吐息を漏らす。
「ありがとう。じゃ、これももう持ってくよ」
皿を両手で持って、俺は厨房を出た。と、カランカランと鐘の音が鳴り響き、
「ちーっす」
ドアが開いて、片手を上げた賢久が現れた。次いで、
「こんばんはー」
ゆか、栞、香央里、匡がぞろぞろと入ってくる。みんなの声を聞いて、雪子も厨房から顔をのぞかせた。
「おお、すっげー!」
賢久と匡が異口同音に感嘆の声を上げ、目を輝かせた。
「なあに間の抜けた顔してんのよ、この食欲バカ」
いつもどおり、香央里が手厳しいツッコミを入れる。もっとも今日ばかりは、二人を責めるのは酷というものだ。テーブルの上には、骨つきチキンにローストビーフ、フライドポテト、オニオンリング、魚介のマリネ、シーザーサラダ、クッキーやマドレーヌといった焼き菓子に、チョコレート――。パーティにふさわしい料理が所狭しと並んでいるのだ。俺はその中に隙間を作り、サンドイッチの皿を置く。
「でもよ、この煮物とかきんぴらとか、ちょっとミスマッチじゃね?」
ふと、賢久が怪訝そうな顔をした。そう、少量だが、筑前煮やきんぴらごぼう、揚げ出し豆腐といった和食も用意してある。何だか酒の席みたいになってしまったけれど。
「もう、賢久先輩鈍感なんですから。和食党の美鈴先輩の好みに合わせて、に決まってるじゃありませんか」
雪子がにこにこしてフォローを入れる。……まさにそのとおりだ。
「はあん。お熱いねえ、このこの」
賢久が俺の脇腹をひじでつついた。
「いや、その……付き合って初めての誕生日だし……」
答えになっているのかいないのかわからないことを、俺はもごもごとつぶやいた。
そう、本日9月23日は美鈴の誕生日。赤い夜に初めて巻き込まれてから、もう1年が過ぎている。
俺たちが結ばれたのち、美鈴は草壁の里へ赴き、父親たる蒼一さんや一族の人々と和解した。だが、いずれ草壁の里に戻って陰陽師になるにせよ、幅広い知識を持っているに越したことはないと、蒼一さんは美鈴に大学に進学することを勧めてくれたらしい。美鈴も喜んでその意見を容れ、4年間は今までどおり綾女ヶ丘の別荘に暮らすことにしたのだ。一方、受験生の俺は美鈴と同じ大学に通うべく、勉学にいそしむ日々である。
「おお、主役以外はそろったみたいだね」
マスターが厨房から出てきた。片手にパーティークラッカーの袋を持っている。
「じゃあこれ。みんな好きなだけ持って」
マスターは袋を開け、中身を全員に配った。




