日々3「こんな秘書」
灰色のスーツに黒のサングラスをかけた、
正直めちゃくちゃ怪しい女性が歩いている。
珍しい緑色のポニーテール。
スタイルも抜群であるのは見た目で分かる。
彼女の名前は「エリー・笹音」
護衛術を完全マスターの自称「西洋の武道家」
剣道、柔道、空手、合気道、杖道、棒術、カポエラー、太極拳。
女性であるにもかかわらず、その技術は男すらかなわない。
アメリカの日系人として生まれ、
父が武道家のため幼いころから武術をたしなんできた。
今は秘書免許も取り、秘書兼護衛として富宝財閥の専属秘書となり、
初仕事として社長の息子の秘書を言い渡されたのである。
≪富宝由貴様、学校の成績も悪く一人での生活が不慣れ・・・なるほど≫
事前に渡された由貴の資料を見るエリー。
≪あら・・・かわいい・・・これはラッキーかも≫
いくら年下とはいえ男と女の一つ屋根の下の生活には苦痛を感じたが、
これほど女の子っぽいなら逆に大歓迎のようだ。
マンションに着きあらかじめ持っているカードで入りエレベーターで上がるエリー。
≪あら?・・・注意事項、特殊能力が備わっているが驚かず自分の仕事を遂行する事≫
特殊能力には驚いたが規則にあるべき事柄は守るのが仕事、
アメリカでの軍事演習に比べれば軽いと踏んだエリーだった。
「この部屋ね、カギは・・・あった」
「ピッ」
ハイテクのためカードがかぎとしての効力を発揮する。
怪しまれないためかつ隠密行動のためここまで来たエリー。
近所にもエリーの存在は秘密のため極力他人との接触は避けた。
だが、目の前に由貴と仲良く寝る少年・・・。
≪・・・予想外!?≫
友達か!?確かに由貴から抱きついているため危険人物ではない模様!
外見からしてハーフなのか?服装は前の開いた制服、
どうやら優等生ではないようだ。
だがまずこの状況をどうする!?
まだ2人は起きていない!違う部屋に隠れる?
外へ出る?・・・・起こす?
≪どうするの?・・・どうしましょう!≫
慌てるエリーをよそに仲良く眠る2人。
エリーはふとその光景を見てこう言った。
≪・・・目の保養に≫
ちょっと好奇心のためか見入ってしまうエリー。
≪・・・なんだか・・どっちも可愛い・・・!!!≫
自分は何を考えていたんだと自問するエリー、
≪だめよ!落ち着きなさいエリー、冷静でないと間違った判断を起こすわ、まずはリラックス深呼吸よ、・・・落ち着いたわね≫
一人だけでこんなに疲れてしまった事に恥ずかしがるエリー、
「・・・ん?・・・なんか起きちまったなぁ」
バッドタイミングで起きるしょう、
それに気がついたエリー、
「え!?」
「ん?」
見つめ合う2人・・・。
「あ、あの〜?」
しょうが口を開いたが、
「ち!違うんです!わわわ私は怪しいものじゃ!!あの!その!えっと!!え!?」
どことなく自分に似ている感じがして親近感を覚えたしょうだった。
「わかってますよ、サングラスにスーツでここにいるってことは由貴関係の人でしょう?」
助け舟を出すしょうのお陰で落ち着くエリー、
「すみません慌ててしまい、私、本日付から由貴様の秘書兼護衛のエリー・笹音です」
「那鎧彰楼です、しょうって呼んでください、ちなみにハーフではありません」
「え!?あ!そ、そうなんですか!てっきり、すみません」
「いや、いいですよ・・・あれ?由貴は?」
「え?しょう様の隣に」
「・・・・・」
固まるしょう、
もしかして・・・一緒に寝てた?
腕が腰に回ってある、抱きついていたのか!?
「・・・・・・」
言葉を失うしょう。
「な、仲がよろしいんですね?」
浅い友なのかと問う目線で訊くエリー。
「は、はははは、いやー、そうですか?」
目が死んでいるしょう。
「では、改めまして本日付で由貴様の秘書兼護衛を勤めさせていただくエリー・笹音です」
あの後しょうは平手で由貴を起こし、
寝ぼけ眼で話を聞く由貴がやっと事を理解し現在に至る。
「そうなんですか、行き成りだからビックリしちゃった♪」
「いつビックリしたお前」
突っ込みをかますしょう。
「おかしいですわね、確か連絡を朝メールでしたはずですが?」
「え?」
「やっぱお前の性だろ、ったく、だから朝早く起きろって言ってんのに」
「あれ?この大量の原稿は?」
反省文100枚の束を見つけたエリー。
「ああ、それね・・」
「ってわけでしょう君にちょっと手伝ってもらって書いたの」
「98枚のどこがちょっとだ!!」
「・・・・由貴様・・」
「え?」
真剣な顔に悲しそうな目をするエリー。
「これほどまでに学力の低下、生活の不規則、他者への迷惑が募っているとは思いもよりませんでした。きっと幼少の頃より一人ぼっちのため、こんなにも社会不適合者になってしまわれたのですね。ですがご安心を!私が来たからには一刻も早い社会復帰と富宝家後継者として立派に鍛えて差し上げます!!」
「え?ごめん、聞き取れなかった」
「こら、逃げるな由貴」
「さぁ!まずは勉学に励みましょう!!」
「え!!だめだよ!今からしょう君とゲームを!!」
「だめです!ゲームなんて今後一切禁止いたします」
「そんなぁ〜、しょう君助けて!!」
半泣きで助けを求める由貴。
「いけません!他者には頼らず!己の力でやるのです!!」
「ん・・・まぁ、じゃ、オレ邪魔だから帰るわ」
「しょ〜う〜」
「さぁ!由貴様!教科書を!」
マンションを出たしょう、
「可哀想だな由貴も、ま、仕方ないだろ」
だが、その発言が不幸を呼んだ。
「しょう、なぜ由貴が可哀想なのかしら?」
≪こ!!この声は!!??≫