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猫又と俺 4  作者: 青蛙
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バカバカバカ

 カタンと先生が自分のティーカップを皿に戻した。ただそれだけなのに部屋の空気がぐんと変わる。

「じゃ、本題に入りますか」

「ほ、本題?」

「惚けたってダメですよ、丘野君。ここにパイ食べに来たわけじゃないでしょう?」

 ソファから立ち上がろうとした俺は先生に肩を押えられて再びソファに沈められた。








「ただいま」

「おう、帰ったか悠斗」

 家に帰った俺の足に黒猫が纏わりつく。尻尾が二つあるこの猫、実はただの猫じゃない。人語を喋ってる時点で普通じゃないんだが、こいつは妖怪なのだ。化け猫妖怪、猫又という。

「なんだ、暗い顔して。腹でも痛いのか」

「別に……」

 猫又相手に言い合いする気にもならず、俺は自分の部屋に入った。

「別にってなんだよ、ああ?」

 いつものやくざばりの声を振り切り、ドアを閉めたはずの俺の部屋のベッドの上に猫又がいるのを見てがっくりと項垂れる。

「何でいるんだよっ」

 人間誰しも一人になりたい時ってある。今、まさにそうなんだ。思春期の難しいお年頃ってやつ。そういう匂い、ぷんぷん漂わせてただろ。

 そこは気を利かせるとこじゃないの? 思うが猫妖怪に相手の気持ちを(おもんばか)れって思うこことがおかしいのだろうか。

 他人同士の共同生活なんてどっちかが我慢ばかりだと上手くいかない。たかられてるばかりのこの生活が共同生活と言えるだろうか。今後の事もあるし、ここははっきり言おう。

「今ちょっと話しをしたくないんだけど」

 言った途端に顔面めがけて猫又の蹴りが飛んで来た。

「わ、わ、分かった。分かったから……ちょっと落ち着こうか」

 驚いて転がった俺の胸に乗っかり、前足の爪をにょっきり出している猫又に向かってマジで焦る。いつでも手を抜かない。ネズミを相手にする時もゾウを相手にするときも全力でやる、そう公言しているこいつの攻撃は半端無い。というか、ゾウを相手にする時っていつ? その上、学校での話をしたらもっと猫又の機嫌を損ねる気がしないでもない。

「悠斗っ」

「わ、分かった。言うからそんな物騒なもん、しまって」

 俺の躊躇も迫る脅威にすぐに翻る。

「笹井先生におつかい頼まれたんだ」

「おつかいだと?」

「う、うん」

 間違いじゃ無い、頼まれたのはおつかいなんだから。

「じゃ、そのおつかいとやらの内容を聞こうじゃないか」

「やっぱり聞く?」

 言った途端に「シャアッ」と猫又が威嚇の声を上げて、俺は速攻で今日の出来事を喋っていた。

「つまり、おまえは大木の根元にあった祠の中から持っていった鏡を返して来いと言われたんだな」

「……うん」

 猫又はハアと大袈裟にため息をついて見せた。猫にため息をつかれる俺って。

「場所は神社だろ」

「……そうだけど」

 猫又の口が『バカバカバカ』と言っている。声は出ていないがそれはしっかり分かってしまった。猫の言いたいことが分る俺。でも全然嬉しく無い。

「その大木ってのは杉か欅。いずれにしてもご神木だな。それは御霊代、または依り代とも言われている神だ。そこに収まっている鏡っていやあ……」

 猫又は俺の体から飛び降りた。

「魔を避けるために埋められていたその魔鏡を使ってあのくそ狐憑きが何をやったのか知らんが、悠斗おまえ簡単に返してくりゃいいとでも思ってるのか?」

 神社に忍び込んで鏡を元に戻す。面倒くさいことだが今晩にでも行ってこようと思っていたのに、猫又の言葉にどんどんやりたくなくなってくる。

「えと、それって危険かな」

「バカ野郎、死ぬぞ」

 ――死ぬ……んですか。アップルパイ一つで自分の命を差し出したのか。嘘、冗談だろ?

「鏡で魔を跳ねのけていたくらい力が集まり易い場所だったところだぞ。鏡がどれだけ無かったのかは知らんが俺サマならそんなところには絶対寄りつかんな」

「か、神さまなんだから……人に危害なんて」

 言った途端にまた猫又が『バカバカバカバカ』と今度は口に出した。

「ここで言う神は仏教とかキリスト教とかそういう外来の神とはまったく別のもんだ。この国は昔から自分たちの力の及ばない物を『神』として祀ってきた。当然、慈悲深いなんてことはない」

 猫又が目をきゅうと細くした。

「悠斗、荒ぶる神って知ってるか?」

「あ、あらぶる……」

 とんでもないことに巻きこまれてしまったと俺はそのまま頭を床に打ち付けた。


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