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簡単なじこしょーかい

 その日、私は初めて硬い天殻を突き破ったのでございます。

 もっとも、私個人の力などたかが知れたもの。

 硬い土砂を何度も踏み固めた上に不快臭を放つ灰色の液体を塗りたくった頑強な殻。

 そんな物をこの華奢な手で突き破れるはずもありません。

 汚れますし、荒れてしまいますし。

 仕方なく土竜(もぐら)さんの身体に寄生、もとい御力を借りて掘り進んだのは良いのですが、思いの外時間がかかってしまいました。

 地中に埋め込まれた情報伝達線(ケーブル)より流れ出でた情報によりますと、土竜さんは非常に早く地面を掘り進めるイメージがあったのですが、実の所は一日に数mしか進まぬという体たらく。

 結局、数ヶ月余りの時を費やしてしまったのです。



 私が始めて地上で目にしたのは生憎の曇り空、の下にある標識でした。

 何やら青い素地に白い矢印。

「これが地―――きゃんっ」

 鉄猪(クルマ)の前足が私の美麗且つ衆目を引いてしまう罪深い顔に迫っているのに気付き、慌てて頭を引っ込めます。

 鉄猪(クルマ)は言葉にするのもおぞましいほどに醜悪な放屁(ガス)を尻から垂れ流して行きました。

 ちょっと信じられません。

 初めて天殻の外に出で、感動の坩堝に浸っているこの私を、粉砕(ころ)しかけた挙句に、ですよ。

 ガ、放屁(ガス)まで浴びせていくなんて。

 許されるわけがありません。

「げほっごほっ。ざけんなー。感動返せ―。今度会ったら死なせちゃるぞー」

 突然、空を飛んでいた雀が数羽、地面にへたりこみました。

 ピクピクと悶えて何か言いたげに、どこか恨めし気にこちらを見ています。

 あ、三匹とも気絶しました。

 幸いにも、距離が遠かったので死には至らなかったよう。

 私の叫びは死の叫びでございますが、時々自分でそれをうっかり忘れてしまいそうになるのです。

 訂正します。

 うっかり忘れます。



 申し遅れました。

 私の名前はドルフォネイション・エペ・エステラルダ・マンドラゴーラ、でございます。

 いささか相性を付け難いかと思われますが、ご近所のオケラ様やミンミン蝉の幼虫様からは【ゴラちゃん】で通っておりまして。

 これでも中々人気を博しているのですよ。


 由緒ある私達の種族。

 世間一般では万病に良く効くお薬として親しまれております。

 付け加えますと私達はその中でも多分に誇り高い血統です。

 けして、一方的に搾取される苦渋の歴史を歩んで来たわけではございませんよ。

 気紛れに足の裏を舐めさせて風邪を治して差し上げるくらいの慈善活動はいたしますが。

 春秋(但し夏と冬は不要)の睡魔さんこんにちおやすみなさい的な日溜まりの気だるさと、TVの討論番組に登場する昨今与野党議員のような乳首の(つつ)き合いの如き馴れ合いを好む私達でございますれば。

 如何なる手段を用いてでも、この生温い生活を守ってきたのです。



 ところでこの世に夏と冬は必要ないと思うのですが、きっと同意して下さる方も多いと信じております。

 植物の私からすればあれは神様の苛め。

 特に夏に至っては、人間さんという野蛮な生き物に毎日のように視姦されている同胞たちが飲まず飲まずの扱いを受け、無残にもうら若きその身を枯らしていると聞きます。

 私は根菜類ですので乾燥にも比較的強い方ですが、仲間の苦境を聞かされれば当然胸が痛みます。

 でも、私より若くて綺麗な奴は死んでしまえばいい。

 ちなみに、私の年はピチピチの三百十二歳です。

 自我が芽生えてからは十二年ですが。



 話がいささか航路を外れかけているご様子。

 面舵(おもかじ)一杯です。

 確か意味は右に曲がれ、です。

 でも、曲がろうとして何かにぶつかりました。

 未だ地面の穴から出れていないので、当然といえば当然なのですが。

 何という醜態でありましょうか。

 あぁ、穴があったら入り……既に入っていました。

 ええと、こういった場合はどうすればよろしいのでしょうか。

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