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優しい先輩

作者: 牛はらみ
掲載日:2026/04/26

可愛い後輩と、優しい先輩。

「なあなあ、一緒に遊ぼうよ」


突然男に声をかけられた。

不躾な声掛けに正直足を止める気も起きない。

無視してそのまま歩いていたのに、無理やり手を掴まれた。


「無視すんなよ、調子乗ってんの?」

「………」


俺の態度に腹を立てたらしい不細工な男がなんか言ってる。きも。

手が触れてることすら不快なのに言葉を交わさなきゃいけないのかと思うとイライラしてきた。

なおも無言を貫く俺により腹が立ったらしい。乱暴に掴んだまま歩き始める。

人気のない路地裏に連れ込まれると、コンクリの壁に力任せに押し付けられた。

いってぇなくそが。


「優しく誘ってやってんのに生意気な態度取りやがって…ふざけんじゃねえぞ!」


でかい声で脅しをかけながら俺のブラウスに手をかけて、そのままぶちぶちと破いた。

信じらんない、頭悪。

破いた先の、ぺったんこの胸元を見て目を丸くするくそ野郎。


「……あ?」

「…俺、男」


貧乳の女だと思われると困るから言っておく。

声の低さも相まって理解したのか、不細工がより顔を歪めて不細工になった。


「カマかよ気持ちわりぃな」

「っ」


そう吐き捨てて力いっぱい突き飛ばして去っていった。

壁に背中打った。いってぇ。


「……はあ」


破かれたブラウスにため息をつく。最悪すぎ。

…ああでも、これはこれでいいかもしれない。

ふと思い立ったことが名案すぎて思わず微笑んだ。





『先輩、会えますか。助けてください』


そんな連絡をすればすぐに来てくれる伊折先輩。

俺の姿を見て目を大きく見開いて、慌てた様子で駆け寄ってくる。


「え、ちょ、どうしたの?!」

「せんぱい…」


弱弱しい声で呼べば、自分のカーディガンを脱いですぐに羽織らせてくれる。

俺が怯えたように事情を説明すると怒っているような、心底心配しているような顔で話を聞いている。

ああ、たまらない。

先輩ちょろいなあ。

笑いたくなるのをこらえて俯く。この優しい先輩は、本当に俺のことを心配してくれるのだ。

背中が打ったといえば確認しようと場所移動を提案してくれた。

カーディガンをきちんと着せて、破かれたブラウスが見えないように配慮して。

手を握れば元気づけるように握り返してくれる。

手を繋いだままネットカフェまで移動して、一緒に個室へ入った。




連れてきておいて先輩はかなり躊躇っていた。


「……ごめん、なんか私がセクハラしてる気分になってきた…」


別にセクハラしてもらっても構わないけど、


「先輩にそんなこと思いませんよ。ちょっと恥ずかしいけど…」


俺のキャラに沿った感じの返事をしておく。

下心なく怪我を確認してほしい、の旨を伝えると納得したらしい。

背を向けてブラウスを脱ぎ、キャミソールをたくしあげる。


「痣ができてるね…」


思ったよりも内出血したらしい。痛々しそうな声を漏らす先輩。

触らせるためにわざとどの辺かを聞いてみる。

控えめに触れる指の感触がくすぐったくて思わず震えてしまった。


「ごめん、痛かった?」


慌てたような声に大丈夫と告げて湿布を貼ってもらう。湿布はたまたま持っていただけだけど、役に立ったな。

さっきよりそおっと触れる指に思いのほかむらむらした。

丁寧に着衣を直してまたカーディガンを羽織らせてくれる。

頭を優しく撫でてくれる手が心地よくて目を細めた。


先輩が、俺の性自認は男、女装が好きなだけということを理解してくれているのは分かってはいる。でもどうにも俺のことを女の子扱いしすぎだと思う。

人は見た目の印象が強いっていうからしょうがないのかもしれない。

それを意図して「可愛らしい女の子」に寄せているのもあるし。まあ、実質俺のせいだけど。


「抱きしめてもらってもいいですか?」


こんな無茶苦茶なお願いすら、俺がまだ怯えていると思って許してくれる。

しかも男の俺が恥ずかしくないように、できるだけ普通を装ってくれている。

優しい先輩。優しすぎる先輩。可愛い。

先輩の腰に手をまわして体重を預けて、首筋に顔を埋める。

ゆったりと背中を擦りながら慰めの言葉をかけてくれる。

正直欲情しちゃって頭に入ってこない。空返事で返してしまう。

あー、いいにおい。柔らかい、母性の塊みたいなこのひとを今すぐ襲いたい。


「先輩、大好きです」


そういっても先輩冥利に尽きるなあなんて返されて、全然意識してないんだよな。

守ってあげたいと思っている対象に欲情されてるなんて思ってもないんだよね。


「こんなに優しいの、先輩だけですから」


意識的に、庇護欲に追い打ちをかけておく。

そう、先輩だけなんだよ。だからずっと俺に気をかけていて。

他の奴なんて見ないように俺だけ。


「先輩は味方でいるから、安心していいよ」


俺の思った通りに解釈してくれた先輩の言葉に、楽しくなって笑った。


「ほんと、先輩だあいすき」


今はまだこのままで。ゆっくりと分かってもらえばいい。

可愛い服の下の、薄汚れた俺を。


可愛い後輩視点。

愛斗くんの独白。

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