表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
経済サスペンス小説『禁断の航路(サンクション・ルート)』  作者: 如月妙美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第四章 最終審判

小章① 役員室の乱入者

 翌日、午前十時。  五代商事本社の最上階、大会議室。  社長をはじめ、全役員と本部長クラスが勢揃いする御前会議。空気は張り詰め、数百億、数千億の案件が淡々と審議されていく。

 神崎は、自信満々の表情でプレゼンテーションを行っていた。

「……以上のように、サウジアラビアの海水淡水化プラント、受注は確実であります。このプロジェクトは、我が社の今後十年の収益基盤となるでしょう」

 スクリーンには、壮大なプラントの完成予想図が映し出されている。  役員たちが満足げに頷く。  その時、会議室の重厚な扉が、ノックもなく開かれた。

「失礼します」

 静まり返る会議室に、海堂が入ってきた。  警備員が慌てて追いかけてくるが、海堂はそれを手で制し、真っ直ぐに社長席へと歩み寄った。

「なんだ君は! ここは役員会だぞ!」

 総務担当役員が怒鳴る。  神崎の顔色が変わった。

「海堂……! 貴様、気でも狂ったか!」

「狂っているのはそっちだ、神崎部長」

 海堂は、作成したレポートの束を、社長の目の前に置いた。

「安全保障貿易管理室の海堂です。本日の議題であるサウジアラビア案件について、重大な懸念事項があり、報告に参りました」

 社長の五代ごだいは、白髪の老紳士だった。彼は眉一つ動かさず、海堂を見据えた。

「……手短に話せ」

「はい。神崎部長が主導するこのプロジェクトの裏で、イランへの不正輸出が行われています。具体的には、ミサイル転用可能なジャイロセンサーの横流しです」

 会議室がどよめいた。  「イラン?」「不正輸出?」

「デタラメだ!」神崎が叫んだ。「証拠はあるのか!」

「あります」

 海堂はポケットからスマホを取り出し、無線でスクリーンに画像を転送した。  映し出されたのは、ドバイの倉庫で撮影した船荷証券(B/L)と、佐々木が解析した資金フローのグラフだ。

「これはドバイのダミー商社『アル・サハラ』にあった船積書類です。仕向け地はイランのバンダル・アッバス。荷主は五代商事。そして、その売却益はドバイの口座を経由し、サウジアラビア政府高官の親族企業へと送金されています」

 海堂は神崎を指差した。

「これは会社ぐるみの犯罪です。もしこの事実がアメリカ政府に知れれば、五代商事はドル決済を禁じられ、国際市場から追放されます。たかだか一つのプラント受注のために、会社全体を沈めるつもりですか!」


小章② 蜥蜴とかげの断末魔

 沈黙が支配した。  あまりにも致命的な証拠。誰も言葉を発せない。  神崎は顔面蒼白になり、脂汗を垂れ流していた。

「ち、違う……。これは、必要悪なんだ。現場を知らない管理部が口を出すな! 俺は会社のために……!」

「会社のためなら、法を犯してもいいと言うのか」

 静かな、しかし威厳のある声が響いた。  五代社長だった。  彼はレポートをパラパラとめくり、眼鏡を外した。

「神崎君。君の功績は認める。だが、一線を越えたな」

「し、社長……」

「我々は商人だ。海賊ではない。ルールを守れない者は、商いの場に立つ資格はない」

 社長の言葉は、死刑宣告に等しかった。  神崎はその場に崩れ落ちた。

「法務部と監査役を呼べ。徹底的に調査し、当局へ報告する。……うみは出し切るぞ」

 社長の号令で、会議室は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。  海堂は、その喧噪を背に、静かに部屋を出た。  勝った。  だが、胸に残るのは虚無感だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ