悪役令嬢と撃ギレヒロイン
その瞬間、舞踏会は止まった。
王城大広間の中央で、ヒロイン――リリアナは、悪役令嬢レディアナのドレスの裾を踏みつけたまま仁王立ちしていた。
数秒前まで、彼女は泣いていた。定番どおり、いじめられ、婚約破棄劇の被害者として。
――の、はずだった。
「うるっさいんだよ!!」
乾いた音が響いた。
レディアナの扇が宙を舞い、次の瞬間には彼女本人も床に転がっていた。
続けざまに、王子カイルの腕を取る。
「待て、リリアナ、誤解――」
「誤解はお前の頭だ!」
背負い投げ。
王族が空を飛んだ。
重い音とともにカイルは床に沈む。
大臣ハデムが震える声を上げた。
「ひ、姫君……? これはいったい――」
リリアナはくるりと振り返る。ドレスの裾が荒々しく翻る。
「もうやめだ!」
静まり返る会場。
「なんで私が、ちょっと顔が良いだけの薄っぺらい王子と一緒にならなきゃならないんだよ!」
ざわり。
「私に近づくんじゃないわよ、くそ王子!」
床に沈んだままのカイルがかすれ声を出す。
「く、くそ……?」
「それからレディアナ!」
指を突きつける。
「ちまちま嫌がらせしてんじゃねえよ! やんなら正面から堂々と来い!」
レディアナは呆然と瞬きをする。
「そもそもなんで、こんな年上の女にいびられてやらなきゃなんねえんだよ! やってらんねえ!」
ヒールを鳴らし、リリアナは大広間の扉へと向かう。
扉が勢いよく開く。
「私は私の好きに生きる!」
そう言い放ち、彼女は出ていった。
残されたのは、床に転がる王子と悪役令嬢、そして呆然と立ち尽くす大臣ハデム。
数秒の沈黙のあと、誰かがぽつりと呟く。
「……これ、誰が悪役だったのだ?」
物語は、ここから大きく狂い始める。




