魔法少女17
『向こう側の世界での滞在三日目』
朝起きて顔を洗い口をゆすいでから俺は森の様子を確認しに向かった。
「おい、マジかよ…」
昨日までは自然豊かだった巨大樹の森が一目でわかるほどに死に始めていた。明らかに昨日観測した浸食スピードよりも速い速度で大地を侵食している。
俺は急いで踵を返し洞窟に帰還した。引っ越し先を見つけないとすぐに洞窟まで浸食されるということを理解させられた。急がなければまずい、天ちゃんのカードですぐさま帰還した俺は森と逆方向に走り始める。
急がないと生きるすべをなくしてしまう。何より少しでも時間を確保しなければ天ちゃんの負担がものすごいことになる。
この事態を予測した天ちゃんは昨日から睡眠をとっていない。
一刻も早く魔法陣を解析し、自身のものにしさらに向こうの世界にある天ちゃんの設置してあるカードに接続しなければならないのだ。はじめこの世界にやってきて天ちゃんは10日でできるといったがあれは最短でという意味だ。
先ほど確認した森への浸食スピードならば10日もせず洞窟は飲み込まれる。さらに逆方向からも浸食が来ている可能性があると天ちゃんは予想している。
さらにあの死んだ土地には魔力が存在しなかった。完全に何もないのだ、それは昨日天ちゃんならば何か情報を掴めるかもと天ちゃんを連れて森に行ったときに天ちゃんが気づいたことである。
この情報が余計に時間がないことを表している。この世界から向こうの世界に帰るためには膨大な魔力がいる、まぁそれは俺の魔力で何とかなるが魔法陣を活性化させるために周辺の魔力濃度も重要になってくると天ちゃんは俺に教えてくれた。つまり、大地が死んでいくにつれて俺たちが安全に転移することができる確率が減っていくのだ。
つまり、時間が圧倒的に足りない
そしてそんな必死で頑張ってくれている天ちゃんのために俺ができることはほとんどない、魔力濃度が高い場所を探すにしても、魔法が使えるようになって少ししか経っていない俺では周囲の魔力濃度を感知することは難しい。本来魔法陣の解析ができるようになってから天ちゃんと二人で探しに行く予定だったのだ。現状それは無理になった。
だから俺にできることは洞窟周辺に天ちゃんが生み出したカードを設置していき、天ちゃんの知覚範囲を広げることである。カード越しでの周辺情報の収集はかなり制度が落ちるらしいがそれでも俺よりましである。
なので俺は必死になってカードを置いて回っている。
「くっそ…」
自身の不甲斐なさに唇をかみしめながら。
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「あぁ、クソやっぱりかよ」
走ること数時間、車かな?と思うような速度で走った俺の目の前には森で見た景色と同様の姿があった。ただし森ではなくおそらく海である。
ただ、海の水はすべてなくなっている。かろうじて砂浜まで浸食されていない。だから海だと判断できた。が最悪だ、天ちゃんの予想が案の定的中した。
どうやら俺たちが送り込まれた世界はもうすでにほとんど死んでいる世界であった。
嫌な現実をたたきつけられた後、俺は砂浜を探索していた。もうすでに海の水はないとはいえ、こう言った海岸には何か流れ着いているのではないか、と予想したからだ。そうして探索し始めること一時間、人類種の痕跡を見つけた。
「小屋…か?これ?」
俺の目の前には木造のバカでかい小屋のようなものがあった。特徴も何もなくただものすごくでかい、ということしかできないただの小屋である。俺の身長では玄関のドアノブにすら背伸びしても届かない、しかしようやく見つけた生き物の痕跡である。俺はすぐさまカードを設置し、中に入ろうとしたがストップした。俺だけでは情報の見逃しがあるかもしれないと考えたからである。天ちゃんにまた負担をかけることになるがこの地域はおそらく今日中には浸食されるので急がなければまずいと判断し急いで天ちゃんのもとへ転移した
転移してすぐに洞窟内に入ると天ちゃんは洞窟の最奥で俺が作った椅子に座り魔法陣の解析に勤しんでいた。
「ごめん天ちゃん、一緒に見てほしいものがあるんだ。ちょっと来てくれない?」
寝不足なのか少し目がトロンとしている天ちゃんは一瞬考えるそぶりを見せて
「うん、いいよ」
といい、手元に出していた魔法陣を消して立ち上がってくれた。が少しふらつくのが見えた。本当に誤差の範囲のふらつきだった。だが明らかに眠気が襲ってきているようだ。そんな状態の天ちゃんに声をかけたことに罪悪感を抱きつつ俺は天ちゃんと一緒に先ほど見つけた小屋に向かって転移した。
「なーるほど、これは優君が私を呼ぶわけだ…」
「ほんとにごめんね、俺だけじゃ細かい情報まで拾えない気がしたからさ」
俺がそういうと天ちゃんは全然大丈夫だよ!と笑顔を見せてくれた。その笑顔を見てまたも不甲斐ない思いが湧き出てきたが顔には出さないようにしてその場でジャンプをしてドアノブに飛びつき、ドアを開けた。幸い鍵などはかかっていなかったためギィ、という音を立ててドアが開いた。
「…うん、まぁそうだよね」
「あぁ、わかってたけどきっついな…」
ドアを開けて見えたものはたくさんの本棚、そして椅子に座り背もたれにもたれかかったままになっている人の死体だった。
「とりあえず、手を合わせておこうか…」
天ちゃんはそう言って手を合わせ祈るような仕草をした後小屋の中に入っていった。それに続いて俺も手を合わせ祈った後地面に降りて玄関から小屋に入った。
「うーん、木材や木のみの大きさからもしかしてとは思っていたけどここは巨人の世界だったみたいだね」
小屋に入り天ちゃんは明らかに俺たちよりも数倍大きいおじいさんの遺体を見てそうつぶやいた。
「あぁ、小人になった気分だ」
椅子や机、本棚や生活雑貨それぞれが俺たちよりも全然でかいのだ。まるで俺と天ちゃんが小さくなったように感じる。
そうやって少し変な感覚を味わっていると天ちゃんは机に飛び乗り、巨人のおじさんの遺体を調べ始めた。
「うん、おそらくだけど死因は毒…だね」
天ちゃんが下からは見えない机の上を見てそう言ったので俺も机に飛び乗ってみる、そこには赤色の飲み物が木製のコップに入れてあった。そしてその横には空になったガラス製の小さな容器、ーーーなるほど自殺か…
「…耐えられなかったんだろうね」
「たぶん、そうだと思う」
孤独に耐えられなかったのか…そのほかにもいろいろ考えられるが…いや止そう…今は情報を集めるのが先だ。
「優君、私は本棚の本を調べてみるよ、たぶん読めないだろうけど…」
「じゃあ俺は家の中に使えるものがないか調べてみるよ」
俺と天ちゃんはそう言って各々行動を開始した。本当はこのおじいさんの遺体を地面に埋めて埋葬してあげたいが時間が足りない…あぁくっそ、やるせないな…
俺はおじいさんに向かって頭を下げ家の中を調べさせてもらいます。と心の中で唱え使えそうなものを調べ始めた。
そうして調べ始めて30分ほどたった。がこの小屋には使えそうなものがあまりなかった。食料はゼロ、調味料らしきものが少しあるくらい、箪笥のようなものの中には服が入っていたが俺たちが使うにはさすがに大きすぎるので一番肌触りが良かったハンカチを数枚いただいたがそれでも俺と天ちゃんの身長よりも大きい、ちなみに30分かけて探索し使えるかもと判断したのがこのハンカチともう一つ、刃渡り1メートルくらいある刃物である。この刃物は手紙のようなものの横にあったのでおそらくペーパーナイフだが俺が使うにはちょうどいいので拝借した。
そんな感じで探索が終わった俺は天ちゃんがいる机の上にジャンプして飛び乗る。
「天ちゃんこっちの探索は終わったけどそっちはどう?」
集中していろいろな書物を読み漁っている天ちゃんに声をかけると少ししょんぼりした顔で顔を振る
「挿絵とかあれば何かわかるかな?と思ったんだけど全部文字で何もわからなかったよ…」
「あー、うんでもしょうがないよ…」
さすがに異世界の言語の解読なんてできるわけないからね…
「けど、一つ魔法の形跡がある本を見つけたよ」
「…まじ?」
さすが天ちゃんである。無理を言ってついてきてもらって本当によかった。俺だけなら見逃すところだった。
「ーーそれも、映像を記録するタイプの魔法だね」
「わぁ…」
本当についてきてもらってよかったよ
「再生するにはちょっと私の魔力じゃ足りないから優君の魔力を借りてもいい?」
「もちろん、どうしたらいい?」
そりゃ徹夜で魔法陣の解析してたんだ。魔力が万全じゃないのもしょうがない俺の魔力くらいいくらでも使ってくれ
「この本に魔力を流すだけで大丈夫」
「おっけー」
俺はそう言って天ちゃんの足元にある本に触れ魔力を流し始めた。
「…うん、もう大丈夫ありがとね優君、じゃあ再生するよ」
天ちゃんがそういった後本が浮かび上がりとある映像を流し始めた。
それは、割れた空間から現れた境界の獣たちが、おじいさんと同じくらいの大きさの巨人を殺して回る映像、自然豊かな森の中でくつろいでいる境界の獣を中心に世界が死んでいく映像、必死で境界の獣たちと戦う戦士たちとその戦士たちと一緒に戦う狼たちの映像、さらに見覚えのある境界の獣…フェイスが魔力を簒奪し魔法が使えなくなった空間で苦しむ人々、地獄のような光景が無数に展開された。そして最後に現れた人型の…俺たちと同じくらいの背丈の化け物、いや境界の悪魔が現れたところでこの映像は終了した。
「…」
そんな目をそらしたくなるような映像を天ちゃんはしっかりと目をそらさずに目に焼き付けていた。
「天ちゃん?」
「ーーーあっ、ごめん少し感傷的になっちゃった。」
そうやってたはは、と笑う天ちゃんに向かって俺は黙って再生の炎を飛ばした。強く握りすぎて血が出ていた手を治すために。
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「さて、もう行こうか…正直本はすべて持って帰りたいけど…そんな余裕はないから置いていくしかないなぁ…持っていけるのはこの本だけか…」
「そう、だね」
たぶん、あの映像から見てもここにある本はこの世界最後の本たちだ。この世界の人たちが残したものだから俺としても持ち帰りたいがさすがに本自体が大きすぎて無理なので映像の魔法がかけられていた本だけを俺と天ちゃんは持ち帰ることにした。
「じゃあ、いこっか?」
「了解…」
俺と天ちゃんは最後におじいさんに向かって頭を下げた後小屋を出た。
その瞬間ーーー魔法が飛んできた。
「天ちゃん!!」
昨日からずっと寝ていない天ちゃんの反応があきらかに遅れていたので俺は自身の頭を守りながら天ちゃんの前に出て魔法を全て受け止める。全身にものすごい圧力がかかり吹き飛ばされそうになるが必死で耐える。なんつう圧力だよ!横方向から来る空気の塊に何とか耐え魔法を飛ばしてきた敵に視線を向ける。
「…狼?」
そこにいたのは大きな狼だった。それも二頭。
「優君、防御ありがとね。それであの狼は映像で巨人さんたちと一緒に戦っていた狼と同じ種かな…」
後ろから天ちゃんがそういって俺の肩から狼たちを見てそう言う。確かにあの映像の狼と似ているが…
「映像で見た狼たちより小さい?」
「うん、たぶん子供だと思う」
映像に出てきた狼たちは、巨人たちに比べると小さかったがそれでもかなり大きいんだろうなということが分かった、が目の前にいる二頭の狼は明らかに映像の狼よりもかなり小さい。
「生き残りか?」
「たぶんね、しかも私たちがあの小屋から出てきてなおかつ本とかを持ち出してるから…泥棒判定を食らってるね…」
「マジか…」
俺と天ちゃんがそう言って話し合ってる間狼たちは俺と天ちゃんを挟むように移動している。どうやら逃がすつもりはないらしい、ちゃんと挟み撃ちにするつもりで動いてやがる…
「優君!できる限り無傷で捕まえて!あの二頭はこの世界の生き物で唯一の生き残りだと思う…だから!」
「おっけー、任せろ!」
俺が天ちゃんのオーダーにそうやって答えてすぐに二頭の狼が突っ込んできた。
うお、すっげぇ迫力!まだ子供とはいえこの狼たちは俺と同じくらいの大きさである。さらによく見ると前足に風を纏っているのが見える。あれは当たったらまずいな!
そう判断し、避けることに意識を向ける。右、左、上、様々な方向から飛んでくる前足での攻撃を身体強化を駆使して飛び回りなが避けどうやって捕まえようか考える。
俺が使える魔法は本当に少ない、魔力を集めて炎を纏わせる『炎月』それに『焔鬼ノ腕』そして『アザミ』厳密にはこれだけである。一応唯一の得意な技であるハイキックには『鳳脚』という名前を付けているがその性質は『炎月』とそう変わりない。
「あれ、俺捕縛用の魔法なんかもってなくない!?」
今気づきました。ハイ、まずいです。
そんな感じで考え事をしながら避け続けているので被弾も増えてきて何度か再生の炎で肉体の欠損を治しているが肉体が欠損してもすぐさま再生するせいで狼は効いていないのかこいつ!?とびっくりしたような表情を浮かべつつならばと威力の高い魔法を行使してくる。
「マジ?」
狼が大きな口を開けるとそこに魔力が重点されていく…まさかブレス!?
ボッ!!と音が鳴り響くと同時に狼の口から発射されたのは風のブレス、吹き飛ばされないように地面に両足を突っ込み支えにするが
「いってぇ!?」
風の中にかまいたちが混ざっていやがる!?頭を守るように掲げていた手が切断されて吹き飛んだ!?すぐ再生するが体中に裂傷が刻まれていく。まぁ再生するんだけどね!そうして5秒ほどたちブレスがやんだ、俺の周りは血があふれかえっているが俺自身は無傷である。いやほんと再生能力様様である。まぁ頭つぶされたら終わりなんだけどね
「が、がう…」
そんな俺を見て狼はマジかこいつ…とドン引きしたような表情を見せる。
…さっきから表情豊かだなこの狼
そんな狼を横目に天ちゃんの様子を見るともう俺と戦っていた狼とは違うもう一頭の狼の上に座って俺の戦いを眺めているのが見えた。
普通に二度見した。
「え!?」
「がう!?」
狼も二度見してた。
「あはは、勝ったら認めてもらえたみたい、懐かれた…のかな?」
そう言って笑う天ちゃんの下で天ちゃんを上に乗せた狼は誇らしそうに「ガウ!」と吠えた。
俺はそれを見て今さっきまで俺と戦っていた狼に向かって静かにうなづくと、狼はまぁしょうがないかという風にうなづき俺のもとに来て伏せてくれた。どうやら上にのせてくれるらしい。
こうして俺と天ちゃんは新しい仲間に出会ったのである。
ーーー名前考えないとなぁ…




