少女1
これは昔の物語、私がヒーローというものに絶望した物語。
「君は絶対大丈夫だよ!あたしが保証する!」
あたしはそう言ってここ一月ほど一緒に過ごしていた男の子の背中をしっかりと押して全力で応援する。初めて会った時はそりゃあもう顔色が悪くて、眼が死んでいたけど今はもう大丈夫だ…と思う!
たびたび自殺しようとすることにはずっとひやひやしていたけどどうやら彼は立ち直り、これからも生きていく勇気が持てたようだ。
あたしはそのことがうれしい、だってずっと昔からあこがれ続けたヒーローみたいに誰かを助けることができたっていうことだから!
さて、じゃあこの家から荷物を整理してあたしの家族が待っている家に帰らないとね!ちょうど彼が学校に復学することを伝えに行った今がチャンスだ!
大きな白紙を用意し、彼に対する応援のメッセージとあたしはもう帰るとことをすらすらと書き、荷物をまとめて一か月過ごした家から出る。
え?なんでちゃんとあってあいさつしないかって?そんなの決まってるじゃん!ヒーローは黙って去るのがお約束だもん!
そうして帰宅すると案の定両親に怒られた。こまめに連絡アプリで連絡を取り電話もしていたとはいえ今回の行為には腹を据えかねているようでそりゃまぁこんこんと怒られた。しかも次の日には師匠にも怒られた。
いやぁ、両親からは怒られなれているからそんなにダメージはなかったけど師匠からのお説教はなかなかにきつかったよ…師匠って怒るとホント怖いんだよね…
そんなことを考えていると師匠が声をかけてきた。
「朱音?境界に入る準備はできたの?ずっと百面相をしているようだけど…」
「あっ!師匠!もちろん準備できていますよ!この一か月でなまった体を叩き直さないといけませんからね!」
えいえいむん!とガッツポーズをとりながら師匠からの質問に答える、師匠は怒ったら怖いんだよなぁとかかんがえていたとかは言えないので勢いでごまかす。
「ほんとかなぁ…」
師匠はあんまり信用できないんだよなこの子、といった感じで青いインナーカラーの入ったきれいな髪を指先でくるくるとしながらいぶかしげにこちらを見てくる。
うーん、我が師匠ながら相変わらず超美しい。圧倒的なまでの顔面偏差値だ。あとおっぱいがでかい。まじであたしにも分けてほしい。切実に
「もちろんですよ師匠!今回は私のさび落としのために低ランクの境界の獣を選んでくれたんですよね!」
「うん、そうだよ、事前に調査した魔法少女協会の人たち曰くDランクだって話だよ、なーのーで今回は朱音ちゃん一人で戦ってもらいまーす!」
「わーい、頑張りまーす!」
そんな感じで師匠とあたしはいつも通り和気あいあいとしながら魔法少女として生活しています。ちなみに今回の境界の獣はちゃんと秒殺したよ!ヒーローたるものどんな敵でも手は抜かないのだ!
「げほ…そろそろまずいなぁ…」
バカなあたしはそうやって能天気に過ごしていた。何も知らずに
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あの男の子を助けるために奔走していた時から一年たった。あたしももうすぐ高校生になる。ちなみに師匠は大学一年生になっている。師匠は魔法少女としても超強いけどしっかりと勉強面も完璧なので有名な大学に進学している。バカなあたしでも聞いたことがある大学だ、ほんとにすごい!
今はあたしからお願いしてあたしの家庭教師をしながら大学に通っているようだ。ただ最近忙しいのか魔法少女としては活動していないようである。昔みたいに一緒に境界に潜りたいんだけど毎回うまくかわされる。
おそらくだけどもう師匠とは2か月くらい境界に潜っていない。
師匠からは「朱音はもう十分強いから独り立ちだよ」と言われているが師匠に比べてまだまだなので修業を見てほしいなぁと思ったり思わなかったり…
そんなことを考えながら最近元気がなかった友達を元気にするためにヒーローとして頑張っています。さーてなになに?大切なキーホルダーをなくしてしまった?なるほど任せて!探してくるよ!
いっくぞー!
見つけられなかった。そりゃそうだ、本人もどこでなくしたかわかっていないし、いつなくしたかもわかってないんだ。手がかりがほとんどなかった。
「ごめん、見つけられなかったよ…」
そう友達に伝える、くっそぉもう少し情報があればと思いながらも友達にそう告げる。
ヒーローたるものあきらめるなんてことをしたくなかったけど、なくしものをした友達からゴミ捨て場をあさっているあたしを見た人がいるって聞いたけどそんなとこまで探してるの?
と連絡がきたので素直にそうだよーと答えた。するとすぐにもう探さなくていいよ!と慌てたような少し誤字が目立つ返信がきた。
あたしは遠慮してるのかな?と思い大丈夫!任せてと言ってそのまま続行したけど1時間くらいして友達が直接あたしのところに来て必死な顔で「もう探さないで!」と言ってきたから中断した。そして見つけられなかったことを謝罪した。
ほんのとにいいのかな?と心配になったけど大丈夫だから!と言っていたのであたしも素直に引き下がった。
そうして一週間くらい経った後、うわさで聞いた。その友達がいじめられてるって。
あたしはすぐに行動した。ヒーローたるものそんな行為は捨て置けない!と幸いその子のおうちは知っているから直接話を聞きに行った。
「お願いだから、もう娘にはかかわらないで…」
友達のお母さんからそう告げられた。友達には会えなかった。
だから地道に情報収集することにした。
こんな活動をしているからかあたしはそれなりに顔が広い、だからすぐにいじめられている理由が分かった。
それは、
彼女があたしにありもしないもの探しを頼み、ゴミだらけになって探しているあたしを見てクスクスと笑っていたというものだった。
あたしはそんなことはない!とすぐに否定した。けどその事実とは異なるバカみたいな噂はもうどうすることもできないくらいに尾ひれをついて広まっていた。
「あいつ、朱音さんがめちゃくちゃかわいいのがむかついたからそんなことをしたんだって、女って怖いよなー」
「わざとゴミと一緒になってるかもと知らせてゴミ箱をずっとあさらせていたらしいよ、しかもその姿を写真でとってたんだって!やばくない!?」
他にも、たくさん意味の分からない理由がついて広まっていた。
だからあたしはそんな噂を撤回するべく必死に動いた。そんな事実はない、そんなことはありえない、そんなことをする子じゃない、必死になって噂を否定しにかかった。仲のいい学校の先生に頼んで全校集会で今あるうわさは全部でたらめだ!と全校生徒に向けて発表もした。
けど無駄だった。朱音さんは優しいから、朱音さんは素直だから、あいつはこんなにも信じてくれる人を陥れようとしたのかゆるせない!
すべて逆効果だった。
そうして少し経った後、彼女が自室で首を吊ろうとしていたところが発見された。幸い娘のことを心配し仕事を辞めずっと自宅にいた彼女の母がそれを阻止したおかげで彼女は無事だった。
あたしは
あたしは何もできなかった。
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あの事件から半年ほどたった。あたしは受験勉強もそこそこにいつものヒーロー活動に出た。といっても受験のシーズンなので簡単なことしかしていない、今日は隣の家のおばあちゃんの買い物の手伝いだ。
隣の家のおばあちゃんの買い物はあたしが小学生のころから行っていることなのですぐに終わった。
だから家に帰って勉強しようと師匠に連絡を入れる。今日も家庭教師お願いします!と
最近師匠は忙しいのかあまり家庭教師のバイトにも来てくれないので今日はひさびさに会う日だ。とっても楽しみだ!
約束の時間になると師匠がきた。相変わらずきれいであたしの憧れの師匠、大学生になってからモテすぎて困ってると師匠の友達から聞いたことがある。
そりゃまぁそうなる。あたしも男の子だったら師匠のことを絶対好きになってるし、おっと今は勉強に集中しないと!
「ここは、この公式が使えるからーーーー救難信号!?」
「ほんとだ!?師匠!!」
勉強中に急に来た救難信号、魔法少女がほんとに命の危機に鳴らす信号だ。近くにいる魔法少女に無差別に送る信号、それを認識した瞬間あたしはすぐに勉強を中断し、師匠に声をかける
「ーーうん、いくよ朱音」
師匠は少し間をおいてそう答えた後カバンからぬいぐるみの真似をして持ち運んでいるヨンを引っ張り出した。
「ヨン、どこから入れる?」
「距離は近いからここからでもはいれるヨン、でも水華ちゃんはーー」
「ヨン、開けて」
いつもと違う師匠と師匠が契約しているヨンとのやり取り、でもあたしは救難信号を出した魔法少女を救うためのことしか頭になくこれを見逃した。
「いきます!師匠!set open red magical girl dress!!」
「うん、水龍照覧!」
「境界を開くヨン!」
境界に入るとそこは何もなかった。
境界の獣も
救援を呼んだはずの魔法少女も
いるはずの、あるはずの境界ではなかった。
代わりにいたのは五体満足な姿で醜悪に笑っている魔法少女と、それを見て一緒に笑っている九つの狐のしっぽが生えた女…いや境界の悪魔だった。
「ほんとに!ほんとに来やがった!!バカだ!本物のバカだ!!見ず知らずの魔法少女が出した救援信号にガチで乗り込んできやがった!!」
「だから言ったでしょう?『水龍』を誘い込むにはあの弟子の魔法少女といっしょに居るときがいいと☆」
そう言って二人の女はまた笑う
「な、なに…どういうこと?」
「ふぅ…そんなことだと思ったよ、裏切り者の魔法少女さん」
全くと言ってもいいほど状況についていけていないあたしを守るように師匠は前に立った。裏切りの魔法少女?
「あん?知ってるのか私のこと」
「うん、ヨンから聞いてるよ、死ぬのが嫌で味方を境界の悪魔に売って生き延びている魔法少女がいるって」
ーーは?味方を売った?魔法少女が?
「あーら、さすがヌイ付きの魔法少女さん、情報が早いねぇ!!そうだよ!あたしがその裏切りの魔法少女だ!」
魔法少女は、裏切りの魔法少女は続けて言う
「なら、あんたが誘い込まれた理由もわかってるよな!!病弱な『水龍』さんよぉ!あんたを殺せば!私は!今よりもっといい思いをさせてもらえるらしいぜ!!だからさ!だからさぁ!!死んでくれよぉ!」
「ーーいや、まぁあなたじゃ無理ですしここに『水龍』を呼んだ時点で役目は終わっているので普通に邪魔です☆」
シュン、裏切りの魔法少女の横に立っている九尾の悪魔は軽く手を振った。
そして裏切りの魔法少女は、殺された事実を認識することもできずに首を斬られて死んだ。
ぴゅーぴゅーと血を噴水のように流す遺体がゆっくりと倒れ、死んだ。
「な、にしてるんだあああああああああ!!!」
その光景を見てあたしはがむしゃらに何も考えずに九尾の悪魔に向かって突進し殴り掛かる。殺した!この、ヒーローの前で人を!殺しやがった!!
「ふぁ~じゃ☆ま」
九尾の悪魔はあくびをしながらあたしの拳を避けて、あたしに向かってさっき裏切りの魔女にしたように手を振るーー
「水龍双剣」
ガギィィィィィン!!甲高い音とともに師匠が持つ蒼い刀と悪魔の手刀がぶつかりあった。ものすごい衝撃波が発生しあたしは無様に吹き飛ばされた。それを見てか、師匠があたしのそばに素早く着地し、あたしを守るように双剣を構える。
「そこの悪魔さん、私の弟子に手を出さないで」
「出すつもりはなかったのですが☆あまりにも隙だらけでしたので…」
呆然と、しりもちをついたあたしはそれを聞くしかなかった。師匠がいなければあたしは間違いなく死んでいた。絶対にそれを脳が理解した瞬間、ありえないくらい早い速度で呼吸が勝手に行われる
「……っ、息……でき、な……!」
「落ち着いて朱音、あなたはちゃんと守るから」
師匠はそう言ってあたしのあたまを撫でた後あたしを安心させるように微笑んで、九尾の悪魔に切りかかった。
今のあたしじゃ戦いの速度を完璧に追いかけることができないレベルでの超速戦闘が行われている。師匠はいつも通り舞のような戦い方で九尾の悪魔と切り結んで、さらに魔法まで行使している。意味の分からないレベルの戦い、あたしなんかじゃ間にも入れない戦い。
けど
師匠の動きが
いつもより
鈍い
しかも口元に血がついて…
そして師匠のきれいな腕が、吹き飛ばされた。
「ししょおおおおおお!!!!」
反射的にあたしはそう叫んで師匠の援護に入ろうとする、今あるすべての魔力を身体強化に回し割り込もうとする
「朱音!!だめ!!」
師匠は血を吐きながらあたしを静止してきた。血を吐きながら、腕から血を流しながら、おかしい、血が止まっていない、あたしの知ってる師匠なら水を液体をすべて掌握して戦う師匠なら出血なんてしないはず
「おやぁ?来ないのですか?今来ないと『水龍』は死にますよぉ☆」
九尾の悪魔はそう言って笑う
「だめだよ朱音、来たらすぐに殺されちゃう、だから逃げて」
「ーーいやです!!いや!!絶対に嫌!!あたしはヒーローなんだから!!」
あたしは必死に叫ぶ、このままじゃ師匠が殺される、そう感じて叫ぶ
「あはははは☆ヒーロー?ヒーローときましたか!!いま!なにもできず!自身の師匠の病気すら知らなかったあなたが?病気の人間に戦わせることでしか生きるすべを見つけられないあなたが!?」
悪魔に笑われる、ヒーローとして今何もできていないあたしのことを嘲笑う、ゲラゲラとあたしのことを指さして笑う
「ねぇうるさいーーー水龍顕現 四海龍王」
境界が水に包まれる、海がそのまま顕現するさらにそれを統べる龍王も召喚される。
「うるさいよ悪魔。なんであなたたちが私の病気のことについて知ってるかはわかんないけど、とりあえずうるさいよ」
「あっは☆これはまずい」
「水天一碧」
生み出されたすべての水が竜王の口に集まり、圧縮されたそれはすぐに悪魔に向かって発射された。
何もなくなった。さっきまであった裏切りの魔法少女の死体も、九尾の悪魔もいなくなった。すべてが師匠によって消し飛ばされた。
「げほ、朱音心配かけたね」
師匠は自身の腕の出血を止めながらあたしのそばに歩いてくる。こほこほと咳をするたびに血が出ている。
「し、ししょう…びょうきって…」
「あはは、ごめんね言うのが遅くなって私余命あと一年もないんだよ」
あっけらかんに師匠はそう言う
「そんな、うそ…なんで…」
「嘘じゃないんだなぁ、これが正直言うつもりはなかったんだ、朱音はヒーローだし伝えたら何とかするために頑張っちゃうと思ったからね、けどねこの病気はどうしようもないんだほんとに。だから伝えなかった、いつも通り朱音と過ごす方が私はうれしいからね」
私は何も言えなかった。頭がいっぱいでごちゃごちゃして考えがまとまらなくて、でもヒーローとして何かしないといけなくて
「ひ、ひーろーなら何とか解決方法を…」
「ほらそうなる、私はヒーローとしての朱音は大好きだけどそれは違うよ、私は今ヒーロー朱音にしてほしいのは一緒に過ごすことなんだよ」
ごほごほと血を吐きながら師匠は言う。
でもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもヒーローなんだ、あたしはヒーローなんだ!
助けないと、師匠を!たすけないとーーーー
「ごふっ…あー失敗しちゃってたか…」
「はい、ぎりぎり何とか生きてました☆」
師匠の胸から九尾の悪魔の手が生えていた。




