第99話 結構、根に持つタイプ?
「このようなものを、フィブレ様はいったいどこから手に入れたのでしょうか?」
「サー・ポーロ士爵のところにいた徴税責任者が、ついさっき持ってきたんだ。ノースランドで仕事を斡旋してもらう見返りとして、これを渡してきた。正義感から見過ごせなくて、サー・ポーロ士爵の執務室から、盗みだしてきたんだと」
「大事な話というのはそのことだったのですわね。たしかにこれは一大事ですわ」
「だろ?」
「ですが正義感に溢れる人間が、果たして仕事の斡旋などを求めるものでしょうか?」
「そこはまぁ建前というか……世の中を円滑に回すための潤滑油というか。一応、以前から何度かやりとりをしたことのある相手だし、俺としては彼は上手く使えば役に立つ人材だとは思ってはいる。官僚的なタイプというか」
自分の考えとは違っても「上」の言うことには唯々諾々と従うタイプだと、俺は彼を評価していた。
ゆえに『不正はするな、一発アウトだからな』とあれだけ言っておけば、新たな「上」の意向を正しく汲み取るはずだ。
「わかりました。まずはその方について、好待遇で採用いたしますわ。税務関連でそれなりの地位を用意しましょう。なにせ人手はまったく足りていませんしね。ですが――」
エスコルヌ女子爵が恨めしそうに俺を見た。
子供のように、頬をぷくーと膨らませる。
美人なのでギャップも感じて、すごく可愛い。
「な、なんでしょう? なにか問題でも?」
「ですがやっぱり、お出迎えくらいはして欲しかったですわね。それが最大の問題です」
「それは本当にごめんってば……もしかして結構、根に持つタイプだったりします?」
「そこは『愛が深い』と仰ってくださいな」
「あははは……」
俺が苦笑すると、エスコルヌ女子爵はふんわりと素敵な笑みを浮かべた。
「ふふっ、ごめんなさい。冗談ですわ。まさかの決定的証拠を前に動揺してしまい、つい話の腰を折ってしまいました。ええ、もう落ち着きましたわ。どうぞ話の続きを」
前から思ってたけど、エスコルヌ女子爵って結構おちゃめな性格をしているよな。
「OK、了解。それでだ。彼に聞いた話や、筆跡を見比べたりと総合的に勘案して、俺はこれが本物だと思った。クラリスはどう思う?」
「細かいところまで貴族の書式に忠実に基づいた文書ですわね。サー・ポーロ士爵の貴族印も精緻極まりないですし、偽造とは思えません。ゆえにわたくしも、この契約書は本物だと思います」
エスコルヌ女子爵が神妙に頷いた。
「やはり本物で間違いないか……」
グッと手に力が入る。
「ですが少し疑問にも思いますわ」
「というと? やはり何か怪しい点が?」
おっとと。
万が一にでも騙されたら一大事だからな。
俺の直感――よく当たるんだ――ではあの徴税責任者が嘘をついているとは思えないが、ここは念には念を入れて疑問点はクリアしておかないと。
「いえ、そうではなくて。このような確たる物証を、サー・ポーロ士爵はわざわざ残しておくでしょうか? 誰かに見られたら一大事です。それが少し気になったのです」
「なるほど、そういうことか」
「あまりに迂闊すぎはしませんか?」
育ちのいいエスコルヌ女子爵の疑問はもっともだった。
だが俺たち庶民(俺はもう立場的には貴族になってしまったが)では、ありそうかなと思える話だった。
「それに関しては多分、サー・ポーロ士爵が『書面で残すよう求められた』という方が正しいかな」
「と、言いますと?」
エスコルヌ女子爵がこてんと小さく首をかしげた。




