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第96話 フィブレ、決定的な物証を手にする

 それはまさに青天の霹靂だった。


「まさか物証が手に入るとはな……」


 ノースランドのエスコルヌ女子爵の屋敷にいた俺は、手の中にある契約書を見て、思わず独り言をつぶやいてしまった。


 つい先ほど、「サー・ポーロ士爵からポロムドーサの税金集めを任されていた徴税責任者」が、どうしても俺に会いたいと面会を求めてきたので、会ってみたのだが――


『お久しぶりですフィブレ殿――いえ、サー・フィブレ士爵。この度は貴族になられたそうで、まことおめでたきに存じます。つきましては士爵ご就任を祝しまして、こちらの文書を献上いたしたく参上しました』


『文書? なんのだ?』


『とある契約書なのですが、詳細はどうぞご覧いただきますれば』


 徴税責任者は卑屈な笑顔でそう言うと、サー・ポーロ士爵と息子のシグマが連名で、俺の暗殺計画を依頼する旨を記した契約書を、差し出してきたのだ。


『なっ、これは――っ』


 俺は食い入るように契約書を読み始めた。


 そこには俺の暗殺を法外な金額で依頼する旨が、はっきりと記されていた。


『これはサー・ポーロ士爵とシグマが、サー・フィブレ士爵――つまりあなた様の暗殺を依頼した、重要な証拠にございます』


 もちろん最初は本物かどうか疑った。


『これは本物か? たしかにサインの筆跡は似ているが……』


 見覚えのある字体はサー・ポーロ士爵の筆跡だったし、さらにはサー・ポーロ士爵の家紋をあしらった精緻な貴族印も押されている。


『筆跡鑑定のために別の書類も持ってきております。どうぞ見比べてみてください』


『これは……うん、たしかにそっくりだ。だがなぜこんな物を持っている?』


 俺が尋ねると、


『私はサー・ポーロ士爵とシグマの2人が、あなたの暗殺が未遂に終わったと会話する場に、私は偶然にも居合わせたのです』


 そんな証言まで飛び出してきた。


『なるほどね』


『そして私は心の奥に込み上げる激しい正義感から、この一件は見過ごせないと強く思い、絶対にサー・フィブレ士爵に伝えねばならぬと考え、こうしてノースランドまで馳せ参じたのです!』


 熱弁を振るう徴税責任者。


『ところで、その話を聞いたのはいつだ?』

『一昨日の午後にございます』


『まさに俺が襲われた日だな』


『やはりそうでしたか! しかし暗殺とは、なんという卑劣な奴らでしょうや! くぅぅ! 許せませんな!!』


 また熱の入った猿芝居だなぁ、となんとも生温かい目で見る俺だ。


 ま、正義感うんぬんはまぁ嘘だろうが、この話を聞いたのが俺とリーリアが襲われたまさに当日とくれば、信じるより他はなかった。


『わかった。届けてくれてありがとう。これはとても重要な物証になるよ』


『で、ですよね。それでなのですが……へへっ、実は私はこの街に引っ越すことを考えておりましてですね?』


 徴税責任者は今日イチに卑屈な顔をすると、両手をもみもみし始めた。


 見返りを求めているのだと察する。


『もちろん相応の礼はするさ。それなりの謝礼と、ノースランドの徴税官に就けるよう、エスコルヌ女子爵に俺から頼んでおこう』


『や、やった!』


 満面の笑みを浮かべた徴税責任者に、しかし俺は釘をさすことを忘れない。


『ただし条件が2つある』


『な、なんなりとお申し付けくださいませ』


 徴税責任者が神妙な顔つきになった。

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