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第94話◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇ 60%減の税収予測

◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇


 サー・ポーロ士爵は屋敷の執務室で、渋い顔をしていた。

 眉間には大きくしわができており、眉が時おりぴくぴくと怒りで痙攣している。


 それもそのはず。

 目の前の机の上には、来年の税収予測が書かれた資料があった。


 そこには──


「来年の税収予測は60パーセント減じゃと? なんということじゃ!」


 サー・ポーロ士爵は、資料を用意した徴税担当の責任者を大声で怒鳴りつけた。


 60%減ということは、つまり半分以下になるということである。


 提示された数字を見て、サー・ポーロ士爵の怒りは頂点に達しようとしていた。


「も、申し訳ありません閣下! ですがいくつもの大ギルドがノースランドへと移転し、さらにそれに続くように中小ギルドまでもが雪崩を打って移転を開始しております。もはや来年の税収はいかんともしがたい状況にございますれば」


 徴税責任者は平身低頭で謝罪と言い訳をした。


「言い訳などせんでよい! ワシはなんとかしろと、言っておるのじゃ!」


 怒鳴りながら、サー・ポーロ士爵は裏で手を引く者の存在を想像していた。


(こうも次から次へと短期間にギルドが移転をしていくとは。これほどの鮮やかな手際、ライオットめが入れ知恵しておるな……!)


 商人ギルドのギルドマスターとして散々、自分とは敵対しておきながら。

 あのフィブレという小僧とエスコルヌ女子爵には全力で味方する。


 サー・ポーロ士爵は馬鹿にされたと怒り心頭で、憤慨が収まらなかった。


「な、なんとかと申されましても、この状況ではわたしの力ではいかんともしがたく……」


 そして徴税責任者はというと、口ではこびへつらいながらも内心では、「お前の責任だろうがこの成り上がりの老いぼれが。全ての始まりは、かかなくていい欲をかいたせいで大所帯の冒険者ギルドが逃げたからではないか」と悪態をついていたが。


 もちろん口にも表情にも出しはしない。


 サー・ポーロ士爵を正論で批判しても、反省するどころか怒りに火を注ぐだけと重々承知しているからだ。


 正義感で下手になにか言ってしまい、不敬罪でしょっぴかれるのはごめんだった。


 ちなみに60%という数字も、徴税責任者があれこれ弄ったり、上振れという名の希望的観測をぶっ込んで、むりくり捻り出した虚飾の数字だ。


 実際の税収減は70%をゆうに超えていた。


「もうよい! 貴様はクビじゃ、この無能めが! お前の代わりなどいくらでもおるからのぅ! 即刻、荷物をまとめて出て行くがよいわ!」


「ははぁ! この度はわたくしめの不徳の致すところにて、税収を大きく減らしてしまい、誠に申し訳ありませんでした!」


 徴税責任者は大仰に言うと、これ以上の怒りを買わないようにと深々と頭を下げた。


 もちろん心の中では「むしろ今の状況なら願ったりかなったりだ。今まではお前の顔色を窺ってカエル税などのバカげた税にも文句を言わずに従ってきたが、いい加減、潮時だ。いっそのこと俺もノースランドに引っ越すかな」などと思っていた。


 徴税責任者は顔をあげると、心から反省しておりますというような殊勝な顔を作りながら、サー・ポーロ士爵の執務室を出て行こうとして――


「親父! しくっちまった! ヤバイぜ!」


 ドラ息子のシグマが大きな声と足音をさせながら、ノックもせずに執務室のドアを叩き開けて入ってきて、徴税責任者はそれを避けるように慌てて飛びのくように身を引いた。


「シグマか。見ての通り、今は取り込み中じゃ」


 いつまで経ってもガサツ極まりないドラ息子に、サー・ポーロ士爵はため息をつきながら言ったのだが。


 シグマは周りが全く見えておらず、徴税責任者がいるにもかかわらず大きな声でがなり立て始めた。


「暗殺部隊が全滅させられちまったんだ! あのフィブレとかいう野郎、めちゃ強だぜ! ああ、くそっ! なんなんだよあの強さはよぉ! 化け物だ!」


 執務室にシグマの大きな声が響いた。


 まだ室内にいた徴税責任者は――その声の大きさではなく――語った内容にギョッとして目を剥いた。

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