第92話「俺は昔からワガママなんだ。それもすごくな」
「え――」
ハッとしたように俺を見つめるリーリアの頬に手を添えると、俺は口づけをした――ほっぺではなくリーリアの唇へと。
チュッ。
柔らかくも瑞々しい張りを感じる素敵な感触があって、さらに舌の先と先とがチョンと一瞬だけ触れ合った。
「はわっ!? あ、あの、えっと……今の、本当の、キス……」
ビクンと肩を跳ねさせると、リーリアの顔がパっと離れる。
真っ赤な顔でしどろもどろなリーリアに、
「もう好意は隠さないことにしたんだ。俺はリーリアが好きだ。死にそうなリーリアを見て、絶対に失いたくないって強く思った。俺はリーリアが好きだよ」
俺は胸の中の想いをまっすぐに告げた。
「ぁ――」
「俺はリーリアを愛しているんだ」
死んだら思いも告げられない。伝わらない。
ゆえに俺は――俺たちは今を精いっぱい生きるんだ!
「フィブレさん……でも――」
その言葉の先は聞かなくてもわかる。
エスコルヌ女子爵のことだ。
不安を見せるリーリアに、俺は自分の想いを正直に語っていく。
「そうだな。俺はリーリアと同じくらいにエスコルヌ女子爵も愛しているんだ」
「です……よね。あはは、貴族の方と競ったら、さすがに負けちゃいますね。仕方ありません。だから私は今のキスだけで充分です」
嬉しそうに、だけど悲しそうに。
正反対の感情が入り混じったはかない笑みを見せるリーリアに、俺はこれまたはっきりと言った。
「十分なもんか。俺は2人ともが好きなんだよ。そして俺は昔からワガママなんだ。それもすごくな」
礼儀知らずな最強のクソガキ。
悪童フィブレ。
Sランク冒険者となり『神童』の二つ名で呼ばれる前の、俺の通り名だ。
最近じゃギルドマスターって立場もあって、自分でもだいぶ丸くなったと思ってはいるが、俺の本質はそこなのだ。
「我がままだと、どうなるんですか?」
リーリアの問いかけに、俺はわがままに答えた。
「もちろん2人ともを幸せにするさ。リーリアもエスコルヌ女子爵も、まとめて幸せにしてみせる」
「──!」
俺の言葉にリーリアの目が大きく見開いた。
「だからリーリア。俺とともに来てくれ。これからも俺の隣で支えてくれ。俺の伴侶として。俺の人生にはリーリアが必要だ」
俺はリーリアの目を見つめながら、ワガママの向くままに二股するとはっきりと言い切った。
俺のことを好きな女の子が2人いて。
俺もその2人の女の子が好きなのだ。
ならこれがマストで正解だろ?
「ですが複数婚が権利として認められている貴族でもない限り、2人と結婚はできませんよ? 一部のお金持ちは愛人を養子縁組したりして、合法的に『家族』にしているみたいですけど」
「ああ、それなら大丈夫だ。だって俺はもう貴族だからな」
俺が自信満々で答えると、
「…………はい?」
リーリアがポカーンとした。
考えがまとまらないのか、言葉が上手く出てこないっぽいリーリアに俺は軽く説明をする。
「昨日、Sランク冒険者の権利を行使して、貴族になった。今の俺はビレージ士爵だ」
「そ、そうだったんですね」
「だから2人と結婚しても何の問題もないのさ」
俺の言葉にリーリアがコクコクとうなずいた。




