第90話 取り乱すフィブレと、甘えんぼなリーリア
チュン、チュンチュン。
チュン、チュンチュン。
夢うつつを遮るスズメたちのかしましいモーニングコールが聞こえた。
「ふぁ……朝か……」
昨日はたしか、リーリアの看病をしながらベッド脇のイスで眠ったんだっけか。
リーリアの容態が峠を越して安心したからか、不自然な姿勢で寝た割にはぐっすりと眠れた気がする。
――などと意識がゆっくりと覚醒を始める中、
「うにゅう……ふわぁ……はう」
のんびりと穏やかな声が聞こえてきた。
同時にシュル、シュルと布地の擦れる音がする。
「――っ!」
俺の脳は一瞬のうちに覚醒した。
さっきまでの夢うつつやら眠気なんてもんは、一瞬で吹っ飛んでいる。
慌てたせいでガタガタッと椅子を揺らしてしまいながら、俺が腰を浮かせてベッドを見やると、
「ふぁぅ~~……むにゃむにゃ」
ベッドの上で上体だけを起こし、掛け布団にくるまるリーリアと目が合った。
リーリアはあくびをしながら目をこすり、だけど顔は俺へと向けている。
「リーリア、目が覚めたのか!」
「あ、はい。おはようございますフィブレさん」
「ああ、おはようリーリア! 目が覚めたんだな! 良かった、本当に良かった……!」
「ええっと、フィブレさん? なんだか妙に大げさですけど、いったいどうしたんですか? 私まだ寝ぼけてるみたいで、ちょっとよくわからないんですけど」
のほほんと尋ねてくるリーリアは、もういつも通りのリーリアで。
「リーリア!」
俺はもうそのことが嬉しく嬉しくてしょうがなくて、思わず身を乗り出すと、ベッドの上のリーリアをぎゅっと抱きしめた。
「ふぃ、フィブレさん? さっきからどうしたんですか?」
「良かった! 本当に良かった! めちゃくちゃ心配したんだからな!」
「あんっ、フィブレさんってば。いきなり抱きしめられたら、恥ずかしいですよぉ。やぁん、くすぐったいですぅ。あん、やんっ。もぅフィブレさんってばぁ。なんだか急に強引なんですから……えへへ♪」
俺の腕の中でリーリアがくすぐったそうに身をよじる。
だけどその割に、俺の腕から逃げようとはしない。
声もいつもより甘えんぼな感じだった。
それらが無性に愛おしくて、可愛らしくて。
俺はリーリアを抱きしめる両手に、もう少しだけキュッと力をこめた。
小さくて柔らかいリーリアの身体の温もりがじんわりと伝わってきて、リーリアが生きていることをこれでもかと俺に教えてくれる。
「だってお前、一時はどうなることかと思ったんだぞ! ……っと、悪い。大きな声を出してしまって。ちょっと興奮しちゃったみたいだ」
ついつい声が大きくなってしまっていることに気付き――毒による昏睡から目覚めたばかりのリーリアに大声は負担がかかると思って――俺はすぐに声を小さく潜めた。
「興奮しちゃってましたね。ふふっ、こんなに取り乱したフィブレさんを見たのは、初めてかもしれません♪」
まだ少し眠たげなリーリアは、俺の腕に抱かれながら、至近距離でのほほんとした笑みを向けてくれる。
「ははっ、いい年だってのに面目ない」
リーリアの「いつもの笑顔」に俺は心底安心して、ようやっとリーリアの身体からゆっくりと手を離したのだった。
「ぁ……」
その時にリーリアが少しだけ、寂しそうな顔をした気がした。




