第9話 リーリア、なでなでを所望する。
「まったく、こういうところはまだまだ子供なんだからさ」
俺は苦笑しながら、リーリアの頭をそっと優しくなでなでしてあげた。
「言っておきますけど。わ、わたしはフィブレさんだからこそ、撫でて欲しいんですからね? 誰にでもこういうことをお願いしていると思ってもらっては、心外なんですからねっ!」
なーんてちょっと早口で言いながらも、顔はとても嬉しそうにはにかんでいるリーリア。
リーリアは素直に可愛い女の子だと思うし、好意を向けられているのを感じもしている。
だが俺は26歳で、リーリアは17歳。
10歳近く年が離れていると、好意を素直には受け取りづらくはあった。
なでなで、なでなで。
「えへへ……」
軽く撫でて終わるつもりが、目をつぶったまま嬉しそうに頬を緩ませるリーリアを見ていると、すぐにやめるのは少し可哀想で。
俺はリーリアが満足するまでしばらく頭を撫でてあげてから、言った。
「さてと。あとは封書に入れて封蝋をして、冒険者ギルド本部まで送るだけだ。リーリア、いつものように冒険者ギルド本部まで運んでもらうよう、商人ギルドに手配してもらってくれ」
出来上がった書類をリーリアに手渡す。
「お任せあれ。あ、そういえば――」
「どうした? まさかミスでも思い出したのか?」
最終チェックで見落としたかと、俺はすっかり緩んでいた気持ちを慌てて引き締め直したのだが、どうもその事ではないようで。
「いえ、書類のことではないんです。商人ギルドと聞いて、お茶を入れに行った時に少し気になる話を聞いたのを思い出しまして」
「気になる話?」
「はい、すぐに正式に報告が上がってくるとは思いますが、先にフィブレさんのお耳にも入れておこうかと」
「話してくれるかな」
「さっきお茶を入れに行ったときに小耳に挟んだんですけどね。南部の平原を通る街道で、遠目ですけど魔獣の群れが見えたそうです」
「魔獣の群れだって? なにが出たんだ?」
「すぐに見えなくなったので断定はできないとのことなんですが、どうもキングウルフじゃないかって話みたいです」
「キングウルフの群れか。ちょうど子育ての時期だし、餌が足りずに山から下りて来たのか? だとしたら狂暴性が上がっているし、群れの規模にもよるが、でかい群れだとかなり危険度が高いな」
体長3メートルを超える大型の魔獣・キングウルフは、人を食い殺すこともある巨大な狼の魔獣だ。
普段は山奥に住み、こうして人里近くまで下りてくることは滅多にないが、子育ての時期には餌を求めて行動範囲が広くなり、狂暴性も増し、危険度は跳ね上がる。
「なので近々、商人ギルドから隊商の護衛の強化と、討伐依頼が来るのではないかと」
「まず間違いなく来るだろうな。オッケー、了解だ。早めに準備をしておこう。情報ありがとな」
「どういたしまして♪ あ、そうだ、知ってます? 隣町のノースランドに――」
淹れたての熱々なお茶を飲みながら、情報共有やら世間話をしていると、
コンコン。
軽快なノックの音が聞こえた。




