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第88話「全て」を解決する妙案

「簡単なことですわ。フィブレ様が貴族になればよろしいのです」


「俺が貴族に? Sランク冒険者の権利を使って、ということですか?」


 俺は暴れドラゴンを討伐したことで、国王陛下直々に栄えあるSランク冒険者の称号を与えられたのだが。


 Sランク冒険者には一つ、大きな特権があって。

 申請するだけで貴族の地位を手にすることができるのだ。


「はい。そうすれば此度の一件は、平民と貴族ではなく、貴族と貴族の争いごとに変わりますわよね?」


 その言葉に俺はハッとした。


「――! なるほど! 対等な関係に変わるわけですね!」


「ええ。貴族同士の争いは、おおむね3つの解決方法がありますわ。1つは普通に話し合うこと。これが基本です」


「話し合いで落としどころが見つからない場合は?」


「それが2つ目となる、命を懸けた決闘ですわ。そしてもう一つ。3つ目として国王陛下の裁定をあおぐこと。そして対等な関係である以上、証拠さえあれば裁定での勝利は確実です」


「確かにそれは妙案ですね。まぁ、決闘を挑んでも受けてはこないでしょうが、なるほど。これなら対等の立場で合法的に追い込めます。これは俺も腹をくくるしかない」


 サロンだのパーティだの、国王陛下への定期的な謁見だのなんだの。

 なにかと堅苦しい面倒ごとが多い貴族になりたくなかった俺は、ずっと権利を行使せずに庶民のままでい続けたのだが。


 なるほど。

 そういうことならもう渋る理由はなかった。


 ただ、一つ問題があるとすれば。


「果たして証拠が手に入るでしょうか? 現場近くにいたのを見たというだけでは、証拠としては成り立ちませんよね?」


「そこもご安心を。当てがございますわ」


「当てですか?」


「かのシグマなる人物は、ドラ息子としてこの辺りの貴族の間では有名ですわ。ガラの悪い貴族の子弟たちとつるんで、あれこれよくない噂でもちきりです。彼らは叩けばいくらでも埃が出るはずです」


「それはそうでしょうけど。ですがそれと、今回の証拠がどう繋がるんです?」


「その子弟の親の貴族に取引を持ち掛けるのです」


「取引……ああ、そういうことですか」


 俺はエスコルヌ女子爵がおおよそ言いたいことを理解した。


「ええ。もし今回の件が国王陛下の裁定でつまびらかになれば、その過程でシグマと交友関係のあった不貞の子弟たちも、貴族らしからぬ振る舞いを糾弾、あるいは断罪されることでしょう」


「それは彼らも――彼らの親も避けたいわけですね?」


「ええ。地方では貴族様として特権を振るっていても、国王陛下のご威光の前には借りてきた猫も同じ。悪事の証拠を突き付けられ、子供が悲しい目に合うのは親としても避けたいはずです」


「つまりシグマの情報をそいつらに売らせる代わりに、そいつらは不問に付す約束をするわけですか」


「さすがはフィブレ様。正解ですわ」


 俗に言う司法取引だ。


「たしかにその案なら、勝算はかなり高いです」


 つまりまとめるとこういうことだ。


・Sランク冒険者の特権で俺が貴族になる。


・貴族同士の争いとなれば、平等に意見をぶつけ合うことができる。


・決闘か、国王陛下の裁定に持ち込む。


・裁定に備えてシグマの不貞の悪友に取引を持ち掛け、証言もしくは証拠を手に入れる。

 

 これがエスコルヌ女子爵の用意した妙案だった。


「そのためにも、まずは形式を整えなければなりません。フィブレ様の貴族申請を直ちに行い、早馬で王都へ届けさせます。今日中の申請であれば、実際にはまだ貴族の地位が与えられていなくとも、事実上は今日からフィブレ様は貴族となりますから」


「わかりました」


 つまり今日から俺は貴族であり。

 そんな貴族の俺に対して、暗殺をしかけたという図式が成立するのだ。


 未遂とはいえ、貴族に対する暗殺が重罪なのは、イチイチ説明しなくとも小さな子供でも分かることだ。


「必要な書類はそろっておりますので、すぐに用意いたしますわ」


「……えらく用意がいいですね」


「ふふっ。フィブレ様がいつその気になられてもいいようにと、準備していたのですわ」


「な、なるほど」


 エスコルヌ女子爵からは常々、貴族になったら身分の差もなくなるし、リーリアも第二婦人という形で迎えれば、どちらかを選ばず3人で仲良く暮らせるから、早く貴族になってくださいねと言われていた俺だ。


 そのために必要な書類をエスコルヌ女子爵が準備をしていても別段、不思議ではない。


 そしてこれでもう、俺は身分違いという言い訳をエスコルヌ女子爵にはできなくなった。


 そういう意味でも、俺は腹をくくる時が来たのかもしれないな。


 エスコルヌ女子爵が言う「全てを解決する妙案」の「全て」には、そういうことも含まれていたのだ。


 さすがはやり手の貴族である。


 まさに「全てを解決する妙案」だった。

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