第87話 フィブレ、暖かい部屋でリーリアを寝かせて一安心する
そしてシノビの芸術的な手綱さばきで、最速でエスコルヌ女子爵の屋敷にたどり着くと、俺は出迎えてくれたエスコルヌ女子爵に端的に事情を話した。
「予定よりも到着が遅いと思っておりましたのですけれど。なんと、そのようなことがおありだったのですね。ええ、ええ。すぐにお部屋を用意いたしますわ。婆や、話は聞いていたわね。すぐに用意して頂戴な」
エスコルヌ女子爵によって、暖かい部屋とベッドが速やかに用意された。
リーリアをベッドに寝かせて、真冬用の温かい羽毛布団と毛布を掛けてあげる。
暖炉には大量の薪がくべられ、部屋の中は暑いくらいだった。
だがリーリアはそれでやっと寒気を感じなくなったようで、今は規則正しい呼吸で、静かに眠っている。
穏やかな寝顔で、少しずつ頬の赤みも戻ってきた。
シノビの言う通り、リーリアが快方に向かっているのがおおいに実感できた。
俺は今度こそ、ホッと一安心した。
そして婆やと一緒に自ら作業を買って出てくれたエスコルヌ女子爵に、俺は深々と頭を下げた。
「リーリアの方はこれで一安心です。エスコルヌ女子爵、手厚いご対応をいただきありがとうございました」
ベッドメイキングも実に鮮やかだった。
最近流行りの「女子力」が高いエスコルヌ女子爵である。
「いえいえ、どうぞお気になさらず。できればリーリアちゃんとは、もっと普通な形でお会いしたかったのですけれど」
「俺ももっと普通に合わせてやりたかったです。リーリアの奴、貴族のドレスを着れるって楽しみにしていましたから」
「元気になったら、好きなだけ着せて差し上げますわ」
「ありがとうございます。きっとリーリアも喜びます」
未来の会話ができるのも、全てはリーリアが無事だったからだ。
「それにしても暗殺ですか。それも白昼堂々、集団で毒を使ってとは、穏やかではありませんね。犯人の目星は付いているのでしょうか?」
「サー・ポーロ士爵の息子シグマが現場近くから逃げ去るのを見た者がいます。ま、そういうことなんでしょう」
「やはりですわね。彼は父であるサー・ポーロ士爵にも増して、悪い噂しか聞きませんので。ですがギルド移転への意趣返しにしては少々、度が過ぎているかと」
「はい。さすがにこれはやりすぎです」
俺の声は自然と怒気をはらんで硬くなっていた。
マジで許さねぇからな。
「もちろん、このまま見過ごしたりはしませんわよね?」
「ヤツはリーリアを死ぬかもしれない目にあわせました。今度ばかりは許せません。何らかの方法で、必ず落とし前をつけさせます」
「何か方法はおありなのですか?」
「それは今から考えます。なにせ今、この瞬間まではリーリアを最優先にしていて、それどころではなかったので」
ようやっと次のことを考える余裕ができた。
「相手は貴族ですわ。今のままでは、合法的にどうこうは難しいかもしれません」
エスコルヌ女子爵の言う通りで、法の平等は、庶民と貴族の間では通用しない。
当然、貴族は平民よりも高い立場にあるからだ。
証拠など簡単に握りつぶされてしまう。
庶民は貴族に泣き寝入りさせられるのが常だった。
「おっしゃる通りです。ゆえに、手段を選ばない形になるかもしれません」
ポリシーに反して非合法な手段を取らざるをえないかもしれないが、俺としては絶対に引きさがれない案件だった。
今回ばかりは絶対に許すわけにはいかない。
俺の大切なリーリアを死なせかけた報いは、必ず受けてもらう。
絶対の絶対にだ。
俺が心の中で強烈な敵意を燃やしていると、エスコルヌ女子爵がニヤリと悪魔的に笑った。
「でしたら、私に妙案があるのですが」
「妙案、ですか?」
「ええ、全てを解決する妙案ですわ」
そんな妙案があるのなら、聞かない手はない。
「その妙案というのを、ぜひお聞かせ願えますか?」




