第85話 解毒
「まさか、毒か――! リーリア、リーリア!」
おそらくだが、シュリケンに毒が塗ってあったのだ。
そしてシノビは同郷の汚れ役として、それを察していたんだろう。
けれどそれを一から説明していると、あの伏兵を取り逃してしまう。
だから俺に毒消しを渡すだけ渡して、自分は伏兵を追うことを優先したのだ。
俺ならこのやり取りだけで意図を察することができると、信頼して。
「あ、う……フィブレさんに当たらなくてよかったです……」
「ああ、リーリアのおかげで助かったよ。けど今はそんなことはいい。しゃべらずに、リラックスだ」
「う……うぅ……。気分が、すごく悪いです……それに寒いです……」
リーリアの手は驚くほどに冷たい。
「手裏剣に塗られていた毒が回っているんだ。気張るんじゃない、力を抜いて深呼吸をしよう」
「は、はい……」
だめだ、どんどんとリーリアの反応が鈍く弱くなってきた。
深呼吸をしろと言ったのに、あまりにか細い呼吸は、止まっているようにすら見える。
俺は「急いでも決して慌てるなよフィブレ・ビレージ」と心の中で自分に語り掛けながら、シノビから貰った小瓶の蓋を慎重に開けた。
万が一、焦って小瓶を地面に落としてしまい、中身がこぼれでもしたら、リーリアはもう助からなくなってしまう。
「リーリア、毒消しの薬だ。飲めるか?」
俺はリーリアの身体を支えてあげながら、小瓶を口元に近づけた。
「…………」
だが返事がない。
「リーリア、リーリア! おい! 聞こえてるか! おい! おい!」
「……」
しかし呼びかけても、リーリアからはまったく反応が返ってこない。
「くそっ、毒の回りが早すぎる! どうする……!?」
事態は一刻を争う。
一秒でも早くリーリアに毒消しを飲まさないといけない。
だがリーリアは完全に意識を失っている。
これでは自分から毒消しを飲むのは不可能だ。
となればもう、これしかない!
俺は意を決すると、小瓶に口をつけて、中身の液体を半分ほど口に含んだ。
形容しがたい強烈な苦みが口の中に充満するが、それがどうした!
俺は薬を口に含んだままリーリアの口元に顔を寄せると、リーリアの口を手でわずかに押し広げながら、口移しで毒消し薬を飲ませにかかった。
薬がこぼれないように自分の唇とリーリアの唇をしっかりと合わせたまま、口に含んだ毒消し薬を、俺はリーリアの口の中にゆっくりと流し込んでいく。
頼む、飲み込んでくれ――!
リーリアは少しの間、飲み込まずにいたのだが。
ついに喉がこくんと動いて、毒消し薬を飲みこんでくれた。
よーし!
毒消し薬を飲んでくれた!
俺はリーリアの唇から唇を離すと、小瓶の残りの毒消し薬を全部、口に含んだ。
そしてもう一度同じようにリーリアの唇に自分の唇を合わせると、リーリアの口の中にゆっくりと毒消し薬を流し込んだ。
またもや少しの間があってから、リーリアが毒消し薬をコクンと飲み込んだ。
「これで全部だ。頼む、治ってくれよ」
もちろんリーリアの返事はない。
だが幾分か表情が穏やかになったように思えた。
「後は寒いって言ってたよな。身体を温めてあげないと」
馬車の荷台に毛布がある。
薄いからそこまでの効果は見込めないが、毛布でくるんで少しでも体温を維持するんだ。
俺がリーリアを馬車の荷台へと運び終えたところで、
「ただいま戻りました」
シノビが戻ってきた。




