第83話 決着
ものすごい量の煙が一気に立ち上り、風下の俺の方に向かって次々と流れ込んできた。
俺は妙に色の濃い煙に一瞬にして囲まれ、暗殺者リーダーの姿を見失ってしまう。
「ちっ、煙玉か!」
追い込まれながらも、俺が風下にいて、風が強くなるタイミングを虎視眈々と計っていやがったのか。
自分の足下に投げて自身も煙に巻き込まれていたのが見えたから、毒性はないはずだ。
だがこれで視界が完全に奪われてしまった。
煙の中から、冷徹な殺意をひしひしと感じる。
どこだ、どこにいる?
俺は目をつぶった。
使い物にならない視覚を捨て、耳に意識を全集中する。
わずかな違和感でも聞き逃すまいと、俺は気配を探り始めた。
シュリケンは飛んでこない。
風切り音が発生して、おおよその方向や距離が特定されるのを嫌ったな?
となれば直接、俺の首に刃を突き立てに来るはず。
その足音を感じ取るしかない。
俺は集中力をさらに高めていく。
少し離れた場所でシノビ&リーリアが戦う音が聞こえてくるが、これはノイズなので無視。
他には何も聞こえない。
もっと、もっとだ。
極限まで集中力を高めろ――!
風が木の葉をわずかに揺らす音が聞こえる。
遠い先の空でトンビが鳴いていた。
身体を流れる血流の音も聞こえてくる。
俺は限界まで聴覚に意識を集中して――そしてほんのわずか、足音のようなものを聞き留めた。
俺の背後、距離にしてわずか2メートルほど。
ともすれば聞き逃したかもしれない、ほんのわずかな違和感のような微音。
だがそれが暗殺者リーダーの足音なのだと、俺は直感していた。
昔から俺の直感はよく当たるのだ。
つまり――来る!
無音の中、背後から俺の首に向かって突き出された刃を、俺は身体を反回転させながらすんでのところでかわした!
「なっ、伊賀忍術の秘儀『歩法:新月』が――」
驚愕の声をあげる暗殺者リーダー。
必殺の突きを交わされ、無防備に背中を晒す暗殺者リーダーを、俺は一刀の元に斬り捨てた。
人を斬る嫌な手応えとともに、
ドサッ!
暗殺者リーダーが糸の切れたマリオネットのように、力なくその場に倒れ伏した。
「ふぅ……! 勝負ありだな。俺の勝ちだ」
俺の言葉と前後して、煙が晴れ始めた。
「あ、ぐ……。なぜ、攻撃の瞬間がわかった……? 『歩法:新月』は気配を殺す、我ら伊賀忍者の奥義ぞ……。それをなぜ……こうも簡単に……」
俺の足下に血だまりが広がり、その中心の暗殺者リーダーが絞り出すような声で尋ねてくる。
「初見なら見えなかっただろうがな。あいにくと俺はこれまで、シノビに何度も気配を殺した不意打ちをくらってたんだ。嫌でも慣れるさ」
「こほっ……。ハンゾウ様……どこまでも我らの邪魔をなされる……」
「とはいえ、それでもシノビだったら、俺は気付けなかっただろうがな。お前のそれはシノビよりも全然、気配が隠しきれてなかったぜ? シノビの攻撃なら今ごろ俺は死んでただろうよ。つまりお前の練度不足だ」
「ふっふ……、ハンゾウ様は……初代・服部半蔵の再臨と呼ばれたお方だからな……」
「己の未熟を、人のせいにしてんじゃねぇよバーカ」
「くく……、本当にむかつくヤツだな、お前という人間は……ハンゾウ様が主と認めるだけのことはある……」
「そうかい」
「ハンゾウ様のこと……よろしく頼む……ぞ……」
最後にそう言い残すと、暗殺者リーダーは静かになった。
完全に事切れたようだ。
「お前に言われなくても、俺は部下の面倒は最後まで見る方だっての」
「……」
もちろん返事は帰ってこない。
死人は口を開かないものだ。
だが同情はしない。
命を狙うようなヤツに同情するほど俺はバカではないからな。
「できれば生かして捕まえて、依頼主が誰かを聞きたかったんだけどな。正直、そこまでの余力はなかったんだよな」
あのほんのわずかな違和感に気付かなければ、地べたを舐めていたのは俺の方だったかもしれなかった。
それにこいつらは汚れ仕事のプロだ。
依頼主についてペラペラ話すとも思えない。
「ま、これで正解か。高望みはよくない」
ほぼ同じタイミングで、シノビとリーリアも残りの暗殺者たちを全滅させ、
「フィブレさん、終わりました!」
「任務完了」
俺のところまでやってくる。
「これにて一件落着だな」
俺がほんの一瞬、気を抜いた瞬間だった。
集中力が完全に切れ、意識が無防備になった瞬間――、
ヒュン!
何かが飛んでくる音がした。




