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第8話 またまたシゴデキなリーリアさん

 サー・ポーロ士爵との定例協議から数日後。

 ギルドマスターの執務室で、俺は秘書のリーリアと一緒に、黙々と書類仕事をこなしていた。


「フィブレさん、冒険者ギルド本部に提出する書類の清書が終わりました。最終確認の上、サインと押印をお願いします」


「了解だ。完成までもうちょいだな。これが終わったら、当面は書類仕事はやらなくてすむ。気合を入れてラストスパートといくか」


「その意気ですよぉ♪ フィブレさん、ふぁいとー♪」


 トレードマークのポニーテールを揺らし、胸の前でギュっと両手の握りこぶしを作って応援してくれるリーリア。

 その可愛いらしい仕草に、俺は不得手な書類仕事で溜まっていた疲れがスッと和らいでいくのを感じていた。


「応援サンキュ。おかげでやる気がもりもり沸いてきたよ」


「それはよかったです。ではわたしは手が空いたので、フィブレさんがチェックしている間にお茶でも入れてきますね」


 リーリアが執務室を出ていき一人になった俺は、バッチリ清書された書類を最終チェックしていく。


 ふむふむ……ペラッ。

 ふむふむ……ペラッ。

 ふむふむふむふむふむ…………ペラペラペラペラッ。


「さすがリーリア。もはや文句のつけようがないくらいに完璧だ。ぶっちゃけレベチすぎて、俺のチェックに意味があるのか疑問なくらいだ」


 内容には何の問題もないことを確認して――シゴデキなリーリアの仕事ぶりは今日もグレイトにパーフェクトだった――最後にサインをし、代々ギルドマスターに引き継がれてきた大きなギルド印を、サインの横に丁寧に押す。


「よし、これで完成っと」

 完成した書類を前に、俺が達成感と満足感に浸っていると。


「お疲れ様でした♪ はい、お茶ですよ」


 タイミングよく、ちょうど戻ってきたリーリアがお茶を給仕してくれた。


 ティーポットから、透き通った美しい赤色がカップにトポトポと注がれる。

 立ち上る湯気とともに香ってくる芳醇な紅茶の匂いを存分に感じながら、熱々のお茶を2人でゆっくりとすすった。


「サンキュ……うん、うまい」

「美味しいですぅ」


「でもなんか、いつもの紅茶より深みがあるような気がするな」


「気付かれましたか。実はちょっとだけ贅沢して、来客用のいい茶葉を使わせていただいたんです」


「どおりで美味しかったわけだ」

「えっと、ダメでしたか?」


 リーリアが少し控えめな口調で、上目づかいで尋ねてくる。


「いやいや、まさか。ここ数日は仕上げのためにかなり頑張ってきたしな。こんな時くらい、ささやかな贅沢をしても誰も(とが)めやしないさ」


「えへへ。そう言ってもらえて、よかったです♪」


 俺が笑って答えると、リーリアは嬉しそうに微笑んだ。


「でもほんと、リーリアが手伝ってくれたおかげで、今回もスムーズに終わったよ。俺だけだと数字が合わなかったりで、マジでどうしようもないからさ。リーリア様さまだ」


 これは誇張でもなんでもなく、純然たる事実である。


 ギルマスになって最初の書類作りで数字合わせに失敗した時、リーリアが『わたしにお任せください。こう見えて数字には強いんです』と言ってくれて、完璧に書類を作り上げてくれて以来、ずっとリーリアを頼りにしている俺だった。


 来客用のちょっといい紅茶を飲むくらいで喜んでくれるなら、安いものだ。


 え?

 無能を誇るなって?


 違うぞ、これは適材適所ってやつだ。

 つまりリーリアを書類作りに割り当てることこそが、ギルマスである俺の仕事だと言っても過言ではないだろう……ないと思う……ぞ?


「ふふっ、わたしはこういった数字を使った仕事は得意なので、これからもどんどん任せてくれて構いませんので!」


「もうほんと、マジで頼りにしてるからな」


 と、そこでリーリアがコホンと咳払いをして、喉の調子を確かめるような仕草をしてから、おずおずと切り出してきた。


「で、ではですね? せっかくなので、ご、ご褒美のひとつでもいただければと……」


 そう言うと、リーリアは目をつむって、スイっと俺の方へと頭を差し出してきた。

 その意味するところは──

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