第78話 襲撃
「ポロムドーサに引き返しますか?」
リーリアが不安そうな顔で尋ねてくる。
「いや。もうエスコルヌ女子爵の屋敷へ行く方が近い。ポロムドーサにはサー・ポーロ士爵の息のかかった奴らも多いし、このままノースランドに向かおう」
「たしかにそうですよね。この状況でポロムドーサに戻るのは、自分から罠に飛び込むようなものです。別の暗殺者が待ち構えているかもですし」
リーリアが納得してくれて、
「飛んで火にいる夏の虫、と言います。私もノースランドがよろしいかと」
シノビも同意見のようだ。
「決まりだな。あと今回の暗殺者は、シノビが一人じゃ対応できないような、ヤバい相手ってことでいいんだよな?」
「相手は私と同じく裏家業に長けた手練れ、しかも集団にございます。数は9名。かなり手ごわい相手かと」
その言い方が少し引っかかった。
俺の直感が妙な違和感を告げている。
「妙に詳しいな? もしかして相手に心当たりでもあるのか?」
そしてその直感は正しかった。
「あります。私は遠い異国の地で、裏家業を生業とする隠れ里で生まれ育ったのですが、彼らは同郷の者たちなのです」
「なっ!? ってことはシノビと同じようなスキル持ちが、何人もいるってことか?」
俺が驚きの言葉を口にした瞬間だった。
ヒュン!
風切り音がした。
とっさに振り向いた俺の視界を、銀色に煌めく「何か」がよぎる。
長年の冒険者生活で培った危険察知能力が反応し、危機感を覚えた俺はとっさの反射で「何か」を避けようと上体を逸らすが――、
「く――っ!」
狙いが鋭い!
避けきれるか!?
刹那の瞬間。
キン!
シノビが目にも留まらぬ速さで抜刀し、俺の顔へと目掛けて飛んできた「何か」をカタナで叩き落としていた。
「うぉっと、あっぶねぇ! 助かったシノビ。サンキューな」
「いえ、今のギルマスの動きであればギリギリで避けれました。差し出がましい真似をしてしまい、申し訳ありません」
「いやいや、めっちゃ助かったっての。ところで、なんだ今のは? 何が飛んできたんだ?」
地面にはシノビが叩き落した「何か」――四方向に尖った刃が付いた見慣れない金属が転がっていた。
「これは手裏剣にございます」
「シュリケン? 初めて聞いたな」
「私の故郷で使われる投擲武器にございます。それよりもご注意を」
シノビに言われて、俺はいつの間にか街道を行く馬車の前後に、上から下まで黒づくめの集団が現れていることに気が付いた。
数は9名。
その格好は全員シノビとそっくりだ。
「なっ、いつの間に……!」
俺は慌てて手綱を引いて馬を止めると、後ろの荷台に手を伸ばして鞘ごと剣を手繰り寄せた。
迷うことなく引き抜く。
ここ最近はほとんど使っていなかったものの、長年使い込んだ愛剣はしっかりと手に馴染んでくれる。
「か、囲まれています!」
リーリアも俺から少し遅れて剣を荷台から取ると、流れるように剣を抜いた。
普段は人手不足&「適材適所で事務作業に明け暮れるリーリアだが、こう見えてBランクの冒険者。
剣の扱いも対人戦闘も、それなり以上にこなせるのだ。
俺は馬を狙われないように、まずはさりげなく馬車を道の脇に寄せると、リーリアとともに警戒しながら馬車を下りた。
俺、シノビ、リーリアの3人で、まずは背中を合わせるようにして死角を消す。
何も言わなくても対集団戦闘の基本防御が自然とできるのが、戦闘を生業とする俺たち冒険者だ。
俺はいつでも反撃できるように細心の注意を払いながら、まずは黒ずくめの集団を観察する。
するとすぐにその中に明らかにリーダーと思しき人物を見つけた。
そいつは俺へと視線を向けると、シノビとよく似た淡々とした口調で言った。
「冒険者ギルドのギルドマスター、フィブレ・ビレージだな?」




