第77話 状況確認~シノビの報告~
「驚かせてしまい、申し訳ありません。それとまずは馬車は止めずにお話を」
いつもは淡々とした感情の見えないシノビの声はしかし。
今日に限っては、わずかに緊張感が漂っている。
火急の報と言っていたし、どうやら緊急事態が起こったようだ。
俺はまったりのんびりオフモードから、ギルマスモードへと即座に意識を切り替えた。
俺だけでなく、隣のリーリアからも真剣な気配が伝わってくる。
「何があったんだ?」
「敵襲にございます」
「敵襲? どういうことだ?」
「正確には、まもなく敵の襲撃があります。狙いはギルマス、つまりはフィブレ殿のお命です」
いやいや、シノビさんってば急に何を言ってんだよ?
一瞬、そう思ったものの。
シノビは超が付く仕事人間かつ、真面目っ子。
そんな意味のない冗談を言うために、わざわざオフの俺に会いに来たりはしない。
つまり確信があるということ。
こちらもそういう前提で話をするべきだ。
「白昼堂々、暗殺とは穏やかじゃないな。だがなんでそんなことがわかる? 今のところそんな気配は感じないし、周りは平和そのものだぞ?」
穏やかな陽光のもと、スズメがチュンチュンと鳴いている光景には、普通であれば危機感など覚えようはずもない。
「蛇の道は蛇、と申します。ギルマスにはギルマスの情報網があるように、我ら陰の者にも独自の情報ルートがあるのです」
「なるほどだな」
「そしてつい先ほど、此度の道中でギルマスへの襲撃計画があるとの情報を得て、急ぎ馳せ参じたのです」
「もしかしなくてもサー・ポーロ士爵の差し金だよな?」
「十中八九、おそらくは」
「ったく。貴族でありながら、暗殺なんて非合法な手を使ってくるとはな。移転がいろんなギルドに波及してかなり大事になって、困ったあげくに強硬手段に出たわけだ。少し追い詰めすぎたかな?」
俺は自分で建てた仮説に、なるほどと納得しかけたのだが。
「いいえ、暗殺自体は今までもありました」
シノビが当たり前のように、当たり前でないことを言った。
「え? いや、今まで暗殺されそうになったことは一度もなかったぞ?」
記憶を掘り返してみるまでもなく、暗殺されるような危険なことは一度もない。
「実を言いますと、私が未然に防いでおりましたゆえ、お気づきにならなかっただけかと」
「え……それマ?」
ここにきて驚愕の事実が発覚した。
なんと俺はここ最近、暗殺者から命を狙われ続けていたらしい。
「マ、にございます。ここ2カ月ほどで合計で7件ありました」
「そんなにかよ……」
週一くらいで狙われてるじゃないか。
「残念ながらはした金で雇われただけの、暗殺の理由も聞かされていない木っ端チンピラでしたので、有益な情報は手に入りませんでしたが」
「そ、そう……」
どうやって情報を聞き出そうとしたのかは、怖いので聞けなかった。
多分もう生きていないだろうし。
と、
「さすがシノビさんですねぇ」
ずっと黙って会話を傾聴していたリーリアが、思わずと言ったようにつぶやくいた。
リーリアはただただ感心したような反応だ。
おそらくリーリアは、シノビが暗殺者を拷問したことには気付いていないんだろう。
もちろん言う必要なんてないし、命を狙ってきた相手にかける情けもない。
が、しかしである。
「あーっと、陰で守ってくれてたのは本当にありがたいんだけど。そういう大事なことは今後は伝えて欲しいな。報・連・相は大切だぞ」
俺は組織の長として、シノビをやんわりと注意した。
「申し訳ございません。最近のギルマスは睡眠もろくに取れないほどに多忙ゆえ、これ以上の負担はまずいと思い、私が全て対処すればいいと。そう判断した次第です
するとそんな答えが返ってくる。
まぁ、そりゃそうだよな。
新人冒険者が最初に教えられるような基礎的なことを、高度な技能をいくつも持ったスペシャリストのシノビが考慮していないわけがない。
「俺に余計な手間をかけさせたくなかったってことな。OK、了解した。今後もその辺りの判断はシノビに任せる」
「承知しました」
「さてと状況が理解できたところで、どうしたもんかな?」




