第76話リーリアとともにノースランドへゆったり馬車の旅をしていたんだが――
悪評への対策会議(実際には特に何もしなかった)から2日後。
俺はリーリアとともに、ポロムドーサからノースランドへと馬車で向かっていた。
二人乗りで、申し訳程度の荷台(という名のスペース)がついた小さな馬車で、俺が手綱を握っている。
荷台にあるのはもしもの時のための護身用の剣と、のどが渇いた時に飲むためのお茶が入った水筒くらいだ。
今日は激務続きの移転作業の休養も兼ねており、これという仕事は入れていないのもあって、俺はのんびりゆったりと馬車を進ませていく。
馬車が進むに合わせて、穏やかな風が頬を撫でていった。
「今日は本当に天気がよくて気持ちがいいです。あ、見てください。亀が甲羅干ししてますよ」
隣に座るリーリアが楽しそうに言いながら、小さな川の岸に上がって日向ぼっこをしている亀を指差した。
「あまり見ない亀だな。もしかしてスッポンじゃないか? せっかくだし大きいのを2,3匹捕まえていくか?」
「……どうして亀を捕まえようと思ったんですか? 知ってます? 亀を触ったら、念入りに手を洗わないと病気になるんですよ?」
「や、美味しいからだけど」
「ええっ!? 亀を食べるんですか?」
俺の返事を聞いて、リーリアが素っ頓狂な声を上げる。
「リーリアは知らないんだな。鳥の肉に似てて美味しいんだぞ。鍋の具材に入れたり、簡単に丸焼きにしてもいいしで、かなり美味しく食べられるんだ」
「えええ……? ほんとですかそれ?」
リーリアは、俺がこういう嘘は言わないとわかっているはず。
が、しかし。
かといって信じるのも少し躊躇する。
そんな半信半疑の顔を見せるリーリアだが、俺の答えは明快だ。
「本当だっての。飲食ギルドのギルドマスターのミネアに、ちょっと前に喰わせてもらったんだ」
「フィブレさん、実際に亀を食べたんですか?」
「ああ、食べたぞ。特にスッポンは薬膳の一種で、滋養強壮にいいんだと」
「ふへぇ。そうだったんですね」
「しかも主に貴族に需要があるらしくて、結構いい値で売れるらしいんだ。って、全部ミネアの受け売りなんだけどな」
この辺りの情報をもっと前に知っていれば、資金繰りのために定期的にうちの冒険者を川に向かわせて、スッポン狩りをさせたんだけどなぁ。
なんにせよ、こういう有益な情報交換が行われるのが、ギルマス寄り合いの大きな存在意義なのだ。
「亀の料理にも詳しいなんて、さすがは数の多さは随一の飲食ギルドをまとめるミネアさんです」
「あとは、東の方に行くと甲羅が魔除けとか占いの道具になるんだと」
「あの、何をどうやって亀の甲羅で占うんですか?」
「俺に聞かれても……投げて距離を測るとか?」
「あはは、ですよねぇ」
リーリアがクスクスと楽しそうに笑った。
「どうする? 下りていって捕まえていくか?」
「うーん、せっかく甲羅干しをしているのに捕まえちゃうのは可哀想なので、止めておきましょう」
「OK了解」
俺たちは川べりのスッポンをスルーすると、ノースランドへの街道を相も変わらずゆっくりと進んでいく。
今日は本当にのどかで、こうやってのんびり馬車を進ませていると、日々の忙しさがまるで別世界のことのように思えてくるよ。
このまま何事もなくのほほんとノースランドへたどりつく――俺は当然、そんな風に思っていたのだが。
「フィブレ殿、火急の報にござります」
いつの間にかまったく気配を悟られることなく現れたシノビが、馬車と並走しながら俺に声をかけてきた。
「うぉっ!? って、シノビかよ。ビックリするなぁ、もぅ!」
気を抜いていたとはいえ、俺もSランク冒険者の端くれ。
普通なら余裕で気配に気付けるはずなんだが、神出鬼没なシノビはいつも俺の上を行く。
まあ、それは置いといてだ。




