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第72話エスコルヌ女子爵はサー・ポーロ士爵をざまぁする(3)

「ぐ、ぐぬぅぅぅ……っ! よってたかってワシをバカにしおって……!」


 もはやこの場に、サー・ポーロ士爵の味方はいなかった。

 否、最初からそんなものはいなかったのだ。


 そもそもサー・ポーロ士爵は領民からだけでなく、近隣の領主貴族からも煙たがられていた。


 お金だけを価値基準とするサー・ポーロ士爵の成金思想は、伝統や格式といった振る舞いや精神性を重んじる貴族たちにとっては、あまり好ましいものではなかったからだ。


 対してエスコルヌ女子爵は若い妙齢の女性で、愛想もよく、教養があり、領民からも愛されて、貴族の伝統やら格式をよく心得た麗人である。


 そして今、金でしか物事を図れないサー・ポーロ士爵が、その金銭的なアドバンテージを失おうとしている今。


 貴族の皆々様がどちらに味方をするかは、火を見るよりも明らかだった。


「――じゃ、じゃが」

 絞り出すように言ったサー・ポーロ士爵に、


「はい、なんでしょう?」

 エスコルヌ女子爵は相も変わらず優雅に答える。


「じゃがワシは別であろう……! 冒険者ギルドはポロムドーサから出て行くのじゃから、ワシには一言くらいあっても良いではないか! そうじゃ! 冒険者ギルドに出て行かれて、ワシがいったいどれほどの迷惑をこうむることか、少し考えればわかることであろう!」


 たしかにこれはなるほどの追求だ。


 現在の貸主であるサー・ポーロ士爵は、言わば関係者の一人とも言えるのだから、一言あってしかるべきだと言う意見は、実にもっともだ。


 しかしもちろん、この問いが来ることもエスコルヌ女子爵は想定済みだった。


 否。

 むしろエスコルヌ女子爵はこの問いこそを、ずっと待ちわびていた。


 エスコルヌ女子爵は、愛しのフィブレの顔を心に思い浮かべた。


(フィブレ様。散々ひどい目にあわされてきたフィブレ様の仇を、今この場で取って差し上げます。周辺貴族が一堂に会する、このサロンという絶好の場で、サー・ポーロ士爵のメンツを完膚なきまでに叩き潰して見せましょう)


 心の中で強い決意を抱きながら、エスコルヌ女子爵は貴族の淑女らしく優雅に笑いながら言った。


「フィブレ様からは『嫌なら出て行ってくれてもいいんじゃよ? 他にも貸し先はいくらでもあるでのぅ』と言われたと伺っておりますけれど?」


「むぐ――、そ、それは……」


「ですのでサー・ポーロ士爵におかれましては、この件は大したことではないと思っておられると、わたくし考えましたの。違いますか?」


「ぐ、ぬ……」


「ですので、わざわざ些細(ささい)なことでご相談を差し上げてしまい、サー・ポーロ士爵の貴重なお時間を頂戴してしまうのもはばかられまして、伝えなかった次第ですわ」


 これにて完全に勝負あり。

 柔らかな物言いながらも、サロンという社交場で見事なざまぁが炸裂し、


「ぐぎぎぎぎぎ……っ!!」


 サー・ポーロ士爵は羞恥で顔を真っ赤にしながら、ギリギリと歯がこすれる音が聞こえるほどに、強く強く奥歯を噛みしめた。


「お話は以上でよろしかったでしょうか?」

「ぐぬぅ……っ!!」


「よろしいようですわね。それではわたくし、皆様への挨拶回りがございますので、これにて失礼いたしますわ、サー・ポーロ士爵」


 エスコルヌ女子爵は美しい所作でスカートを摘まむと、流麗なカーテシーを見せ、サー・ポーロ士爵の前から軽やかに立ち去った。


 サー・ポーロ士爵は屈辱にまみれながら、他の貴族と談笑するエスコルヌ女子爵を睨みつけていたのだが。


 しかし同じ貴族であり――どころか爵位も上のエスコルヌ女子爵に、これ以上たてつくことなどできはせず。


 周りの貴族たちからは誰一人として、慰めの言葉をかけられることもなく。


「急な用事を思い出したわ! ワシは帰る! ふんっ!」


 哀れ、完全に孤立無援となったサー・ポーロ士爵は忌々しげに吐き捨てると、サロンの場から逃げるように立ち去ったのだった。


◇サー・ポーロ士爵 SIDE END◇

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