第7話 ◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇「金・金・金」
◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇
時間は半日ほど遡り。
フィブレとサー・ポーロ士爵の定例協議の直後。
その協議が行われた応接間にて、サー・ポーロ士爵は下卑た笑みを浮かべていた。
「くっくっく、愉快愉快。愉快じゃのぅ。あの小僧の必死な顔、途中で笑いをこらえるのに必死だったわ」
サー・ポーロ士爵の屋敷を、肩を落としながら去っていくフィブレの背中を、サー・ポーロ士爵は窓から尊大に見下ろす。
「そもそも、ワシの息子をギルドマスターにするのを拒否し続けるから、こうなるのじゃよ。なにが、『金のことばかりしか頭になく、冒険者の心に思い至らぬ者に、ギルドマスターの地位は任せられません』じゃ。世間の道理も知らぬたわけめが」
先代のギルドマスター(リーリアの祖父)から言われた言葉を思い出して、サー・ポーロ士爵は小さく舌打ちをした。
「ワシには金が要るというのに」
サー・ポーロ士爵には夢があった。
士爵などというその辺にいくらでも転がっている名ばかり貴族ではなく、伯爵か、せめて男爵という、古来より連綿と続いてきた確固たる爵位を手に入れ、胸を張って自分は貴族なのだと世に知らしめる――そんな大望を抱いていた。
どうやって手に入れるか?
もちろん金でねじ伏せて手に入れるのだ。
「この世を動かすのは、最後は金よ。名誉も爵位もなにもかも、金で買えないものなどないのじゃ」
そのためには「金のなる木」である冒険者ギルドは、何が何でも手に入れておきたい資金源だった。
そして冒険者ギルドを手に入れるべく、サー・ポーロ士爵はギルドマスターに自分の息子を据える計画を思いついたのだが――。
「あの愚か者の先代ギルドマスターめが。どれだけ鼻薬を嗅がせても一向に首を縦に振らぬときた。しかもよりにもよって、あんな若造を次のギルドマスターにすげる始末じゃ。まったくもって度し難い」
サー・ポーロ士爵は今なお、はらわたが煮えくり返るような思いだった。
サー・ポーロ士爵の息子は、父親のサー・ポーロ士爵から見ても小ズルいだけの凡夫であったが、やはり自分の血を分けた子供というのは可愛いもの。
先代ギルドマスターによる後継者選びは――世間から見れば順当そのものだったのだが――サー・ポーロ士爵にとってみれば、可愛い息子がフィブレなる若造より劣ると言われたようなものであり、到底、許容しがたいものだった。
「だがその結果がこれじゃ。店子の分際で、貸し主にたてつくからこうなるのじゃよ。くくくくく……」
サー・ポーロ士爵がこうもフィブレに対して、露骨なまでに嫌がらせをしていたのは、このような私怨があったからだった。
「ドラゴンを倒したSランク冒険者だかなんだか知らんが、しょせんは学のない冒険者。教養を身に着けたこのワシの相手ではないわ」
フィブレをやり込めたサー・ポーロ士爵はご満悦だった。
「冒険者ギルドは金のなる木。じゃが手に入れられんのなら、徹底的に搾り取ってくれるわ。くっくっく、別に嫌なら出ていけばいいでのぅ。出ていけるものならのぅ。くくく、くーっくっくっく……」
サー・ポーロ士爵の薄汚い笑い声が、誰も聞くもののいない応接間に静かに消えていった。
◇サー・ポーロ士爵 SIDE END◇
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