第65話 屈辱のサー・ポーロ士爵
「ではそのツテを使って、ポロムドーサ冒険者ギルドが置かれていた苦しい状況を、俺から説明する機会を作ってはもらえませんか?」
(オレは散々世話になったポロムドーサ冒険者ギルドから、金のために移転してきた。
だっていうのにフィブレさんは、紹介状まで用意して気持ちよく送り出してくれた。
その不義理をいつか返したいと思っていたが、どうやらその時が来たようだ)
「もちろん構わないよ。その機会を作れるようにすぐに話を付けてみせよう」
「本当ですか!」
「ああ。ポロムドーサ冒険者ギルドに最近までいて内情を知っていて。だけど現在は『中立』の立場で。さらにはAランク冒険者で人望も厚い君が、今回の騒動について詳しく説明すれば、冒険者ギルド本部も悪いようにはしないだろう」
「ありがとうございます! この恩はいつか必ずお返しします!」
クラウスは声を高ぶらせながら、ギルドマスターの手をひしと握った。
「なーに、これくらいは大したことじゃないさ。ボクもフィブレ君には、命を救ってもらった大きな借りがあるからね。そろそろいい加減、どこかで返さないといけないなって、ずっと思っていたし」
「それでも、ありがとうございます!」
クラウスは手を握ったまま何度も頭を下げる。
「あはは。よしてよ、そういうのは」
「ですが――」
「結局のところ冒険者ギルドは貴族のためにあるわけじゃなく、冒険者が助け合うための互助組織だからね。貴族の威光を跳ねのけるだけの正当な理由さえあれば、ちゃんとボクらの味方をしてくれるのさ」
「なるほどですね」
「さぁクラウス。話はこれくらいにして、早速準備をしよう。やるなら早い方がいい。事は一刻を争うよ。本部の調査チームが王都を出てポロムドーサに向かう前に、話を着けるんだ」
「ええ! すぐに準備をします」
「僭越ながらボクもいろいろと動かせてもらおう。今の冒険者ギルド本部を差配するグレート・ギルドマスターとも旧知だし、貴族にも何人か顔が効くからね」
冒険者ギルド本部の対応とは別に、貴族の力を借りようとギルドマスターは考えていた。
貴族の威光を抑えるには、こちらも貴族の威光を借りるのがやはり手っ取り早いからだ。
「まさか貴族にも顔が効くんですか……ですが貴族がオレたち平民に力を貸してくれるでしょうか?」
もちろん通常であれば、貴族と平民の争いで、貴族が平民に力を貸してくれることはまずない。
だが。
「フィブレ君は暴れドラゴンに悩まされていた地域の領主貴族からの覚えが、すこぶるいいんだ。そりゃあそうだよね、彼らにとってフィブレ君は救世主だったんだから」
「フィブレさんが救世主……」
「だからことフィブレ君を助けるためであれば、手を貸してくれる可能性は高いと思うよ?」
「フィブレさんって、本当にすごい人だったんですね」
「あはは、だからそう言ってるじゃないか」
普段の気のいい兄ちゃんムーブしか知らないクラウスは、改めてフィブレの実績に感心したのだった。
というわけで。
この後すぐにクラウスは冒険者ギルド本部へと赴き、結成されたばかりの調査チームを相手に一世一代の大演説を行った。
さらに数名の貴族が連名で、冒険者ギルドに助力すると書面で確約してくれたこともあり。
冒険者ギルドはクラウスの説明でもって状況を把握したとし、これをもって調査の代わりとして、サー・ポーロ士爵の嘆願書を問答無用で却下したのだった。
◇クラウス SIDE END◇
◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇
「なっ! 貴族であるワシの嘆願書を、ろくに調査もせずに却下してきたじゃと……! どういうことじゃ、これはっ!」
執務室にサー・ポーロ士爵の怒声が響き渡った。
グシャリと力いっぱいに握りつぶしたのは、冒険者ギルドから突き返された「嘆願書」と、今後の調査も行わないという通知書だ。
サー・ポーロ士爵の老いた身体は怒りでわなわなと震えていた。
「ぐぬぅ……! 何をしたのかは知らんが、ギルド移転の密約といい、ギルドで連盟を作っていた件といい、今回の件といい! あの青二才めが、あちこち裏から手を回しおってからに!」
こと今回の一件に関してはフィブレが何かをしたわけではなく、フィブレの作ってきた人脈や絆が、そういったものをないがしろにしてきたサー・ポーロ士爵の薄汚い計略を打ち砕いただけなのだが。
とかく目先の金にしか目が行かないサー・ポーロ士爵が、そういった人と人との絆のなんたるかを理解する日はないのだった。
「ぐぎぎぎぎ……! 許さんぞフィブレ・ビレージ! もはや四の五の言ってはおられん。シグマの案にワシも全力で乗ってやるわい……!!」
サー・ポーロ士爵の執務室に、暗い憎悪の怨嗟が渦巻き始めた――
◇サー・ポーロ士爵 SIDE END◇




