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第64話 クラウスは見抜く、サー・ポーロ士爵の魂胆を。

「可能かどうかはボクにはわからないけど、少なくともその件でサー・ポーロ士爵との間で揉めてるとか、一方的に難癖をつけられてるとか。おそらくは、そういうことみたいだね」


「そんなの間違いなくサー・ポーロ士爵のせいですよ。それはもう酷い成り上がり貴族でしたから。フィブレさんは絶対に悪くありません。オレは断言できます」


 クラウスがハッキリと言い切ったのを見て、ギルドマスターは分かっているよと言わんばかりに、小さく肩をすくめながらうなずいた。


「まぁそうなんだろうねぇ。ただ、そうは言ってもだよ? 相手は恐れ多くも貴族様だ。その貴族様の嘆願書を無視するわけにもいかないだろう?」


「それは、まぁ、そうですけど……」


 貴族は生まれながらにして平民とは違う特権階級。

 冒険者ギルド本部という大きな組織であっても、貴族の意向は無下にはできない。


 貴族は貴族であるがゆえに。


「だから状況を把握するために、たとえばフィブレ君をギルド本部に呼び出すなりしないといけないだろうし。今の状態で移転の作業をいったん全て中断するようにと、命令を出すなりするかもしれないわけさ」


「それらがフィブレさんへの妨害となるわけですね?」


「なっちゃうだろうねぇ。移転作業を中断ともなると、いろいろ問題も出てくるだろうし」


 ギルドマスターのふんわりとした言葉に、しかしクラウスはふと思い当たることがあった。


「そういえば、たしかポロムドーサ冒険者ギルドの施設の契約満了が、そろそろだったような……」


「だったらなおさら移転が中断すると痛いよねぇ。当面ノースランドに行けなくなる以上は、旧施設でサー・ポーロ士爵と新たな契約を結ばないといけなくなる」


「くっ、それがサー・ポーロ士爵の狙いだったのか! あともう少し時間を稼げば、フィブレさんに契約更新を迫ることができるから!」


 クラウスはサー・ポーロ士爵の魂胆に、ついにたどり着いた。


「文字通り妨害工作だね。当然、サー・ポーロ士爵は相当な額を吹っ掛けるだろう。フィブレ君もポロムドーサとノースランドで二重契約をさせられてしまう。いやはや、せこいこと考えるねぇ」


「なんて姑息な……!」


「ボクも同感。本当にあくどい奴だよ、そのサー・ポーロ士爵って貴族は。自分のせいで出て行かれようとしているのに、自らは改善することなく、妨害して引き留めようとするんだから」


「人が本来持っているはずの正義の心ってやつを、アイツはこれっぽっちも持ち合わせちゃいないんだ! くっ、フィブレさん……!」


 感情が熱く(たかぶ)りなりながらも、しかしクラウスの頭は冷静に思考を行っていた。

 優れた冒険者とは、感情と思考を割り切ることができるのだ。


 そしてクラウスが考えていたのは、サー・ポーロ士爵のことではなかった。

 妨害工作のことでもない。


 クラウスが考えていたのは「なぜギルドマスターはわざわざこの話を自分にしてきたのか」ということについてだ。


 それはクラウスにこの件で手助けする力があると、そう見ているに違いないと、クラウスは大雑把にあたりを付ける。


(それはなんだ?

 ギルドマスターはオレに何をさせようとしている?

 サー・ポーロ士爵の妨害工作に対して、オレはいったい何ができる?

 オレはこの盤上で、どんな効果を持った駒なんだ?

 オレの果たすべき役割は――そうか、わかったぞ!)


 フィブレへの恩義に報いるため、クラウスは懸命に頭を巡らせ――そして一つの答えを得た。


「先ほど、冒険者ギルド本部に知り合いがいると言っていましたよね?」


「うん、言ったよ。なんでも言い合える昔馴染みさ」

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