第63話 クラウスの援護
◇クラウス SIDE◇
クラウスはAランクパーティを率いる、若き冒険者である。
ポロムドーサ冒険者ギルドからメグニーワ冒険者ギルドへと移籍してからも、クラウスはひたすら実直にクエストに励み、新たなギルドでの人間関係の構築に尽力し、今や完全にギルドの一員として――いや主力メンバーとして好意的に迎え入れられていた。
ギルドマスターからの覚えも上々で、よそ者にもかかわらず、将来は幹部としての道も開けつつあるほどだ。
(もちろん「神童フィブレの紹介状」も大いに効果があったのだが、そこから後は全てクラウスの行動の結果である)
今日も信頼するパーティメンバーとともに大きなクエストを攻略して帰還したクラウスの元に、ある情報がもたらされた。
それが何かというと。
「冒険者ギルド本部に、サー・ポーロ士爵から嘆願状が出されたですって? 本当なんですか、それ」
メグニーワ冒険者ギルドのギルマス執務室に呼び出されたクラウスが、人払いされた二人きりの状態でギルドマスターから伝えられたのは、そんな奇妙な情報だった。
「冒険者ギルド本部に古い知り合いがいてね。そこからの情報さ。おっと一応、口外無用で頼むよ。これはクラウス、君を信頼して特別に教えている極秘情報なんだからね?」
ギルドマスターの言葉にクラウスはわかったと大きくうなずいてから、言葉を返した。
「フィブレさんは間違ってもそんなことをする人間ではないですよ。ゆえに嘆願状はなにかの意図があってのこと――いえ、虚偽の内容に違いありません」
「だろうねぇ。フィブレ君は元々まっすぐな性格だし、ひと頃と比べれば口も態度もすっかり丸くなったみたいだしねぇ」
ギルドマスターが昔を懐かしむような口ぶりとともに苦笑する。
ちょうどいい機会と、クラウスは前々から気になっていたことを尋ねた。
「昔のフィブレさんって、そんなに口が悪かったんですか? オレは今の気のいいフィブレさんしか知らないので、時々耳にするフィブレさんの昔話をとても想像できないんですが」
「初対面でかなり年上だったボクに『おいおっさん! 死にたいのか! もう邪魔だから後ろ下がっとけよ、この●●!』って怒鳴ってくるくらいには、ヤンチャな性格だったね」
「ええぇぇ……」
想像もしなかった話を聞かされて、クラウスは完全に面食らってしまう。
とても同じ人物について話しているとは思えなかった。
「他にも売られた喧嘩は片っ端から買っていたね。それも倍返し、いや3倍返し4倍返しでボコボコにしちゃうんだ」
「……」
「若いからって舐められることも多かったみたいでね。まぁかなり血気盛んだったよ。でもボクの知る限り、フィブレ君が負けたことは一度もなかったんじゃないかな?」
「……そ、想像もつかないです。そりゃ強さだけで言えば、今でもオレよりもぜんぜん強いでしょうけど」
「彼のは二つ名は『神童』だったけど、ボクの中じゃ『悪童』と言った方がよりイメージが近いかなぁ。偉い人のパーティなんかでも、いやいや顔だけ出したらすぐにどこかに消えてしまったりと、エピソードには事欠かないから」
「あのフィブレさんに、そんなワンパクな時代があったんですね……」
フィブレ自身も反省している黒歴史に初めて触れたクラウスは、ひきつった笑みを浮かべた。
「ちょっと話が逸れちゃったね。冒険者ギルド本部も貴族からの嘆願書が出た以上は、調査をしないといけないらしい。いやはや、上の人らも大変だよね。あははは」
「そもそもの話、なぜ嘆願書なんて出されたんです?」
他人事のように――事実、他人事なのだが――笑うギルマスに、クラウスは素朴な疑問を問いかけた。
「ボクも詳しくは知らないけれど、どうやらポロムドーサ冒険者ギルドは隣町のノースランドに移転するらしいんだよ」
「ギルドの移転ですか!? 本当に? そんなことが可能なんですか?」
またもや想像もしなかった答えを聞かされて、クラウスは思わず大きく目を見開いた。




