第62話 ◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇ ドラ息子のシグマは裏社会とつるむ
「そうかい。なら親父は親父のやり方でやればいいさ。だがオレもオレのやり方でやらせてもらうぞ。平民に舐められたままでいられるかよ。オレたちはな、貴族なんだからよ!」
「な、何をする気じゃシグマ?」
いつの間にかドラ息子のシグマの瞳に、凶悪な色が灯っていることに気付き、サー・ポーロ士爵はおそるおそる尋ねる。
「俺の遊び仲間に、裏社会に顔がきくヤツがいる。そいつのツテを使う。フィブレとかいうクソギルマスを殺れば、移転の機運なんざすぐにしぼむだろう?」
「な――っ!?」
「へへっ、どんな大義やご大層な名目があろうが、みんな最後は自分の命が一番大切だからな。いわゆる見せしめって奴よ」
ドラ息子のシグマがニヤリと悪い笑みを浮かべた。
フィブレを暗殺しようと言うのだ。
「う、裏社会じゃと? まさかお前、そんな危険な奴らとつるんでおったのか! 奴らは人の弱みに付け込んでくる屑どもじゃ。仮にこの件では上手く行ったとして。それをネタに未来永劫、延々とゆすりたかられるのは目に見えておるぞ!」
「だからそんな腑抜けたこと言ってるから、舐められてこんなことになってんだろうがよ!? オレたち貴族様に逆らうとどうなるか、思い知らせてやらないといけねぇんだよ!」
「そ、それは……じゃが――」
「ジャガもイモもねぇ! これから先、少々金をたかられようが、今後のことを考えたらそんなもんは大事の前の小事だろ! 大事なのは今なんだよ! 違うか!?」
シグマは短絡的で暴力的な性格をしており、一度カッとなると人の言うことを聞かず、いまや敗軍の将たるサー・ポーロ士爵にはこの暴れイノシシを説得することは不可能だった。
「たしかにこのままではマズイことになる。我が一族は軽んじられ、ノースランドへの人口流出は避けられんじゃろう。せっかく手にした貴族の地位も失うやもしれぬ」
「なんだ、親父もわかってんじゃねーか。安心したぜ」
「暗殺の件、依頼主が我々だと、冒険者ギルド側にはくれぐれも悟られぬようにな?」
「あのクソギルマスは平民、俺たちは貴族だ。貴族同士ならまずいことになるかもしれないが、貴族と平民ならバレても別にどうとでもなるっての」
「知られぬに越したことはないじゃろう?」
「親父はイチイチ心配し過ぎだっての。じゃあそういうことだから、オレは好きにやらせてもらうぜ。あのすかしたクソギルマス野郎に目にもの見せてやる。へへっ……!」
ドラ息子のシグマはそう鼻息も荒く言い残すと、ノシノシと怒りの足音を立てながら執務室を出て行った。
「裏社会の人間に弱みを握られるのはまずい……奴らはワシらを骨の髄までしゃぶりつくそうとするじゃろう」
裏社会のクズどもがいかに性根の腐った奴らであるかは、サー・ポーロ士爵もよく心得ていた。
「じゃがこのままでは我がポロムドーサが経済的にまずいことになるのも事実じゃ。より高みへと昇るワシの計画も頓挫してしまう。ここはシグマの策に乗るしかないのか……じゃが……いや……」
ほんの数日前までは栄光の日々が続いていたというのに、短期間でどうしてこんなことになってしまったのか。
サー・ポーロ士爵は虚ろな瞳で己に問いかけながら、ひとまずは王都にある冒険者ギルド本部への嘆願書をしたため始めた。
もはやサー・ポーロ士爵にできることは限られていた。
とはいえ。
「これはこれでそれなりの効果は見込めるはず。貴族の申し出をむげに断れはせん。調査ともなれば、ギルド移転にとりあえず待ったがかかるはずじゃ」
嘆願書の内容がことごとく嘘八百に満ち満ちていたことは、言うまでもない。
◇サー・ポーロ士爵 SIDE END◇




