第61話 ◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇ 怒鳴り込んできたドラ息子のシグマ
◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇
フィブレとの定例協議にて三行半が突き付けられた日の夕刻。
「なんとかせねばならぬぞ……! 冒険者ギルドの奴らめ、ワシの大切なポロムドーサの街ををつぶす気でおる……!」
焦燥と呆然と屈辱からいくらか立ち直ったサー・ポーロ士爵は、憎々し気に独り言をつぶやきながら、執務室で今後の対策について必死に考えを巡らせていた。
するとドタドタと足音が聞こえてきて、とある人物が怒鳴り込んできた。
ドラ息子のシグマである。
「おい親父! どうなってんだよこれは!」
「シグマか。ワシは今、たてこんでおる。後にせい」
「何が後にせいだ! 冒険者ギルドが、いやギルド連中が軒並みごっそりノースランドに移転するって話で、街は持ちきりだぞ!」
ドラ息子シグマの顔はりんごのように赤く、体中から濃密なアルコールの匂いが漂っている。
今日もろくに働きもせずに、真昼間から出来の悪い貴族の子弟たちと女を侍らせ、酒を飲み歩いていたのが手に取るように見て取れた。
「そのことか」
サー・ポーロ士爵は息子の素行の悪さに溜め息をついたのだが。
ドラ息子のシグマは血走った目で怒鳴ってきた。
「だからそのことか、じゃねぇだろ! いったい何がどうなってんだよ!? 納得いく説明をしてもらうぜ!」
「実はのぅ──」
あまりの声のでかさにサー・ポーロ士爵は思わず眉をひそめながら、定例協議であったことをかいつまんで話し始めた。
……
…………
「なんだそりゃ!? こっそりとそんな計画を進めていたとは、あの野郎! 舐めくさりやがって! そんで、どうすんだよ親父?」
「ここまで事が進んでしまえば、もはや妨害工作もできることが限られてくる。機運というものが醸成されてしまっておるからの。大河のごとき大きな流れができてしまっておるのじゃ」
「はぁ? じゃあなんだ? このままいいようにやられるのを、指をくわえて見てろってのかよ?」
「そうは言っておらぬ。いくつか対抗策を考えたのじゃが、まずは冒険者ギルド本部に抗議文を送る。このような非道が行われておると、貴族の威光を存分に使って上部団体に訴えかけることで、奴らに圧力を──」
「そんな悠長なこと言ってられねーだろ! 事は一刻を争うんだぞ! 冒険者ギルドの上がりが消えたらシャレになんねぇっての! 今すぐにでも翻意させねえとダメだろうが!」
「わかっておる。ここはいったんワシに任せて――」
「親父に任せてたからこうなったんだろうが!」
「む、むぐ……」
サー・ポーロ士爵はその一言で完全に黙らされてしまった。
たとえ何を言っても。
たとえ相手がドラ息子のシグマであっても。
事ここに至っては「移転されてしまった」という結果以上に重い意味を持つものはありはしないからだ。
言うなればサー・ポーロ士爵は敗軍の将だった。
「冒険者ギルドがいなくなりゃ、でかい上がりがごっそりなくなる。代わりに残るのはボロくてでかいだけの、ろくに借り手もいない使い勝手の悪い建物だけだぞ!」
「そんなことは言われんでもわかっておる」
「しかも他のギルドまで一緒ときた! 商人ギルド、飲食ギルドは構成員が多いから特にヤバい。町に金が回らなくなるぞ? 下手すりゃこの町は終わりだ!」
焦燥していたところをドラ息子のシグマにあーだこーだと正論パンチで詰められてしまい、ついにサー・ポーロ士爵は切れてしまった。
「わかっておると言っておるじゃろう! じゃからワシなりに手を打つと言っておるのじゃ!」
大きく声を荒らげてしまう。
サー・ポーロ士爵とドラ息子のシグマの親子はしばしの間、無言でにらみ合った。
しばらくして、ドラ息子のシグマが先に口を開いた。




