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第59話「待ってくれ! 話せばわかる! だから考え直してはくれまいか。頼む、この通りじゃ!」

「ええ。冒険者ギルドの新施設の建設が終われば、職人が大勢余ります。その職人を使って、ノースランドを通る新たな街道を作るんですよ。実に合理的でしょう?」


「なっ? 馬鹿を言うな! そんなのはくだらぬブラフじゃろうて! 人手は足りるとしても、それだけ大がかりな工事、資金がどれほどかかることか!」


「それもご安心を。資金は未来への投資として、商人ギルドが全て負担してくれますから」


「な、なんじゃと⁉」


「しかも商人ギルドには、街道の管理・運営のノウハウもあるそうですよ。なんでもサー・ポーロ士爵が本来は領主として行うべき街道の整備や管理を、商人ギルドに全てやらせていたからだとか?」


「そ、それは……、ぐ、ぐぬぅ……!」


(な、なんということじゃ!

 街道の整備費用は膨大、ゆえに管理・運営にも人手とコストがかかる。

 それを商人ギルドに丸投げすることで経費を大幅に浮かせていたのが、まさか裏目に出るとは――!)


「おかげで商人ギルドは、貴重なノウハウを蓄積することができたわけですがね。こういうの、損して得取れって言うんでしたっけ」


「ぐ、ぐぅぅ……! む!? ちょっと待つのじゃ。では今の街道はどうなる? ポロムドーサを通る街道の管理や維持は誰が行うのじゃ? 商人ギルドはもちろん継続してやってくれるのじゃろうな?」


「それは俺の知るところではないですね。ただ言えるのは、使う必要のなくなった街道を今後も整備する理由も義理も、商人ギルドにはないでしょうね」


「むぐ――っ」


 つまりは領主であるサー・ポーロ士爵が、街道の整備をしなければならないと言うことである。


 いや、これは領主が本来するべき仕事なので、「当たり前でなかったこと」が「当たり前の状態」に戻っただけなのだが。


 冒険者ギルドからの巨大な「上がり」がなくなることに加えて、街道整備の膨大な費用がこれからのしかかってくることになり、サー・ポーロ士爵は思わず頭を抱えてしまった。


 フィブレはそれを悠然と見下ろす。


「他に何か質問はありますか? あればお答えしますが?」


「こ、これほどの大事業、領主の許可もなしには行えぬ……まさかエスコルヌ女子爵もグルじゃったのか……?」


「グルではありませんよ」


「おお、そうじゃったか! やはりエスコルヌ女子爵はワシのことをわかってくれておる……!」


 フィブレの答えを聞き、サー・ポーロ士爵は最後の心のよりどころを見つけて、ホッとした。


 やはり貴族の繋がりは強い。

 あの美しい笑顔があれば自分はまだやっていけるのだと、そんな妄想まで抱くほどに。


 だが、もちろんこれは一度上げて落とすための、フィブレの狙い済ましたミスリードである。

 ぬか喜びするサー・ポーロ士爵を、フィブレは一切の容赦なくぶった切った。


「エスコルヌ女子爵はギルド移転の密約を結んだ最初の相手です。言わば俺たちは一心同体の間柄。グルなどという下卑た言い方で呼んでほしくはないものですね」


「こ、このワシをたばかりおって、あの女狐めがぁぁぁぁっっ!!」


 サー・ポーロ士爵の顔が怒りに染まった。

 青筋がビキビキと額に浮かぶ。


「おっと。その物言いは、サー・ポーロ士爵よりも目上であるエスコルヌ女子爵に対して少々不敬ではありませんか? 貴族なのですから、そういった感情的な物言いは控えた方がよろしいかと」


「ぐ、ぐぎぎ……っ!」


 しかし今日この日のために完璧に理論武装してきたフィブレに、これまた完膚なきまでにやり込められてしまい、もはやサー・ポーロ士爵は歯ぎしりをするしかできなかった。


(くそぅ! くそぅ! くそぅ!!)


 サー・ポーロ士爵は歯ぎしりをしながら──いや歯ぎしりしかできずに、フィブレを憎々しげに睨みつける。


「どうやらもう質問はないようですね。それでは俺はこれで失礼します。これから俺は、移転の作業で忙しくなりますのでね」


 いつもはサー・ポーロ士爵がニヤニヤとウエメセで言ってくるセリフを、フィブレはサラリと言い残すと、執務室から退出しようと歩き出した。


 それを見て、サー・ポーロ士爵は慌てて声を上げる。


「ま、待つのじゃ! 今、冒険者ギルドに移転されたら、この街の経済損失は計り知れない! 大変なことになってしまう!」


 惨めな声が執務室に響き渡る。


「この街の? あなたの、の間違いでしょう? なによりこの街を出て行く俺には、もう関係のないことです」


 フィブレは足を止めると肩越しに小さく振り返って言い放つ。


「うぐぅっ……」


「だいたい、いまさら何を言っているんです? 何度も言いますが、出ていけと言ったのはサー・ポーロ士爵、あなたの方です」


「う……ぐ……」


「だから出て行く、ただそれだけでしょう? 俺とあなたのどちらの希望も叶う。まさにウィンウィンの関係でしょうに」


「ま、待ってくれ! 話せばわかる! だから考え直してはくれまいか。頼む、この通りじゃ!」


 サー・ポーロ士爵の情けない声を背中に聞きながら、しかしフィブレはもはや話すことは何もないとばかりに、歩き出す。


「ま、待つのじゃ──ま、待ってくれぬか! 頼む! この通りじゃ!」


 しつこく呼び掛ける声に聞く耳などまったくもたず、フィブレはサー・ポーロ士爵の執務室から退出した。


 その心がとても晴れやかだったのは、言うまでもない。


 颯爽(さっそう)と立ち去るフィブレとは対照的に、サー・ポーロ士爵は呆然とした顔で執務室のイスにへたり込んだ。


「な、なにが起こったというのじゃ……」


 予想だにしていなかった「現実」を突き付けられたサー・ポーロ士爵の力ない声が、広い執務室にポトリとこぼれ落ちた――


◇サー・ポーロ士爵 SIDE END◇



まずは「ファーストざまぁ」が完了です!

ここからサー・ポーロ士爵の転落が始まります。


長きにわたる物語も最終局面。

続きをどうぞお楽しみに!

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