第58話「う、嘘はやめよ! 商人ギルドが移転に賛成などするわけがない!」
「ノースランドに作っていたのは訓練場のはずじゃろう……!」
「訓練場だけ隣町にあるのは不便でしょう? 片道2時間もかかりますから。なのでギルドごと移転することにしたんです。そっちの方が便利ですからね」
「ぐっ……!」
「先日、完成した施設を見てきたんですがね。新しくて綺麗で、使いやすくて、実に素晴らしい施設でしたよ。これならうちのギルドの冒険者たちも大満足してくれることでしょう」
「ま、待て! そんなことをされては困る! 冒険者ギルドは大所帯。それが移転などポロムドーサにどれだけの影響があるか――」
「おや? いくらでも貸して欲しいと言っているところはあると、サー・ポーロ士爵は先ほども仰っておられたような?」
「それはその、言葉の綾というか……」
サー・ポーロ士爵がもごもごと言い訳をするが時すでに遅し。
今や形勢は完全に逆転していた。
実際問題、現施設は老朽化が激しく、使用料は王都並みに高く、無駄に大きいだけの施設である。
そんな使いにくい施設を利用し続けることができる大規模団体など、実のところポロムドーサの街には、冒険者ギルドを除いて存在しないのだ。
フィブレもそれは分かってはいたが、出ていく先がなかったために、我慢に我慢を重ねていただけ。
新たな施設が完成した今、もはやフィブレがサー・ポーロ士爵に忖度する必要は、猫の額ほどもありはしなかった。
「今後はどうぞその『新しい借り手の方々』と仲良くやってください。隣町から見守っておりますので」
(まずい、まずいぞこれは……!
こやつめ、どうやら本気で冒険者ギルドを移転しようとしているらしい。
なんとかして移転を思いとどまらせねばならぬ……!
でなければ施設から入ってくる金がゼロになってしまう。
ゆくゆくは冒険者ギルドを手に入れる算段も、全てご破算じゃ……!)
今になってその事実を突きつけられたサー・ポーロ士爵は、必死に頭を働かせ、フィブレに翻意を促そうとノースランド移転の問題点をあげつらい始めた。
「じゃが冒険者ギルドだけ移転したとて、武器や道具はどうやって手に入れるつもりじゃ? あそこにはろくにギルドもないじゃろう。逆に不便になるのではないかのう?」
(そうじゃ。
結局のところ、あの田舎町で冒険者ギルドがやっていけるわけがないのじゃ。
ゆえにワシがおどおどする必要はない。
そのはずじゃ)
サー・ポーロ士爵はなんとか移転が失敗する理由を見つけて、心を平静に保とうとしていたのだが、今日この日この時この瞬間のために想定問答を万全に用意していたフィブレは、容赦のないマジレスを返していく。
「ご心配いただきありがとうございます。ですが商人ギルド、武器防具ギルド、飲食ギルドは既にノースランドへの移転を決めておりますので、どうぞご心配なく」
「なん……、じゃと……?」
「他にも薬草ギルド、鉱物ギルド、製鉄ギルドといった冒険者ギルドと関りのあるいくつかのギルドに声をかけてあります。なにせ最大ギルドである商人ギルドが協力してくれていますからね。まだ声をかけていないギルドもすぐに話に乗ってくるでしょう」
商人ギルドは規模の大きさもさることながら、物の売り買いを支える最も基礎的なギルドである。
そこが移転するとなれば、着いてくるギルドが多数出てくるのは当然と言えば当然だった。
加えて飲食ギルドのギルドマスター・ミネアの人望の厚さもある。
ミネアが一緒に移転しようと声をかけて回れば、これまで重税や一方的な通告などで利益をむさぼり人望が皆無のサー・ポーロ士爵に味方する者など、いるはずもなかった。
ちなみにこの定例協議とちょうど時を同じくしてライオット、グラハム、ミネアが緊急のギルマス寄り合いを開催し、ノースランド移転へ賛同するギルドを募っている。
「う、嘘はやめよ! 商人ギルドが移転に賛成などするわけがない! だいたい、ノースランドにはろくに街道も通っておらぬ! あんな僻地ではそもそも大きな商売など成り立たぬわ! くくっ、つまり全てブラフよ! バカの考え休むに似たりとはこのことじゃな!」
交通の不便というノースランド最大の弱点を突いたサー・ポーロ士爵。
鬼の首を取ったかのごとく、どうだと言わんばかりに目を見開いたのだが。
「街道なら付け替えれば済む話です。もうその問題はクリアしています」
「……は? つ、付け替えじゃと……?」
事ここに至って、フィブレからまったく予想だにしない回答をされてしまい、サー・ポーロ士爵はまたもやあんぐりと口を開けてしまった。




