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第57話 ざまぁの時 ~決戦! 定例協議!~

◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇


 定例協議の日。


「そろそろ入って良いぞ」


 サー・ポーロ士爵はいつものようにフィブレをわざと無駄に待たせてから、執務室に入るように促した。


 待たせることに必要性は特にない。

 強いて言うなら待たせることでフィブレという若者の時間を浪費させることが楽しいからである。


 普段ならただただ愉快なだけの嫌がらせなのだが、今日に限ってはサー・ポーロ士爵には小さな不安要素があり、そのせいでいつもよりだいぶん早くフィブレを執務室へと招き入れていた。


 どこまでも小者なサー・ポーロ士爵である。


 もちろん今日という日を決戦ととらえ、入念な準備をし、戦闘レベルで意識を高ぶらせていたフィブレは、すぐにそのことに気が付いていた。


(おいおい、始まる前から余裕のなさが透けて見えるぞ。それじゃあ勝てる勝負も勝てないぜ? ま、これはあんたが負ける勝負だがな)


 フィブレに完全に見透かされているとは露しらず、サー・ポーロ士爵は平然を装っていつものウエメセで言った。


「早速じゃが次の契約更新について、そろそろ答えをもらえんかのう? ワシも暇ではないのじゃよ。いい加減、この話は終わりのしたいのじゃ。お主と違うてワシは忙しいからのぅ」


 尊大に言いながら、机の上に置かれた、後はサインをするだけの契約書をトントンと指で叩いて指し示す。


(さて、どう出てくるかのう? もしノースランドに完成しつつある施設が訓練場ではなく冒険者ギルドの本施設なら少々、厄介なことになるが……)


 不安を覚えていたサー・ポーロ士爵だったが、


「やはり施設利用料を2倍にする提案は、受け入れられません。どうか考え直してはいただけませんか?」


 いつものように下手に出てきたフィブレを見て、サー・ポーロ士爵は一安心した。


 同時にギルド移転などという「あり得ない可能性」にビビっていたさっきまでの自分を恥じる。


(やはりワシの取り越し苦労じゃったか。まぁあんな田舎に移転など、できようはずもなかろうて。ククッ……)


「前にも言ったであろう? 嫌なら出ていきたまえ。貴様らがいなくてもワシは少しも困らんからのぅ。借り手はいくらでもおる」


 だからサー・ポーロ士爵はいつものようにニヤニヤと笑いながら、ウエメセな態度で言ったのだが――。


「分かりました。では出ていくことにいたします。サー・ポーロ士爵には長らくお世話になりました。これまでのこと謹んで御礼申し上げます」


「……は? 今なんと?」


 フィブレが満面の笑みとともに発した言葉に、サー・ポーロ士爵は驚きのあまりあっけにとられてしまった。


「ですから、出ていくと申し上げました。そんな暴利と呼ぶべき金額は、とても払えませんのでね」


「な──なんじゃとっ!?」


 思わず椅子から腰を浮かせたサー・ポーロ士爵に向かって、フィブレは居住まいを正すと、高々と宣言した!


「サー・ポーロ士爵に改めてお伝えします。我々冒険者ギルドは契約の更新を行わず、今契約の満了をもって施設から出ていくことをここに宣言します!」


「な、何を言って……そ、そうか! ワシから譲歩を引き出そうという作戦だな? なんたる姑息か。その手には乗らんぞ? いいぞ、出ていきたいのなら出ていくがよい。出ていけるものならなぁ。はははは――」


「はい。ですから出ていくと言っているんですよ」


「……は?」


 繰り返される「出ていく」というフィブレの言葉に、サー・ポーロ士爵は高笑いの口の形のまま、あんぐりと口を開けて固まってしまった。


 意味がわからなかった。

 いや、わからないのではなく、脳が理解を拒んでいた。

 なぜならそんなことは「あり得ない」はずだったから。


「ですからお望み通り出ていきますよ。そんなに出ていって欲しいのならね」


 これまでずっと丁寧だったフィブレの口調が、貴族に対する最低限の礼節だけは残しながら、少しずつ攻撃的になり始める。


 今ではすっかり丸くなったが、元々フィブレは最強のクソガキとして名を馳せた人間なので、地が出始めたと言うのが正しいかもしれない。


 それはそれとして。


(まさか、本気で出て行こうとしておるのか?

 まさか?

 い、いや、舐められてなるものか!

 脅しには屈さんぞ!)


「じゃ、じゃからそんな脅しには乗らんと言っておるだろう! だいたい出ていく先などあるわけがないわ! 冒険者ギルドは大所帯、受け入れられる施設などないではないか!」


「ノースランドに新しい施設を作っていたんですが、先日それが完成しましてね。おや? この件は既にご存じかと思いましたが?」


 ノースランドという言葉が、サー・ポーロ士爵の脳裏に深々と突き刺さる。


 これまで先入観で見て見ぬ振りをしてきた「事実」が、サー・ポーロ士爵の中で次々と繋がり始めた――!

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