第55話 決戦前夜
というわけで、様々な状況や情報が一つの結論を示していた。
それはつまり、勝負の日がついにやって来たということだ。
「3日後は定例協議の日か。そろそろ頃合いかな」
ギルマス執務室で仕事をする合間の休憩に、サイコロを振って1のゾロ目を綺麗に出しながら、俺はなんとはなしにつぶやいた。
執務室にはもう一人リーリアが作業をしていたのだが、察しのいいリーリアはたったそれだけで、俺が何を言いたいのか気付いてくれる。
「サー・ポーロ士爵にギルド移転の話を告げるんですね?」
「ああ。もうそろそろ隠すのは無理だと思うからさ。どうせバレるなら、いっそのことこっちから堂々と宣言してやろうかと思ってるんだ」
「わわっ! ついにこの時が来たんですね!」
リーリアが興奮気味の声を上げた。
「これまで散々やりたい放題されてきたからな。ここはビシッと言ってやろうかと」
「フィブレさん、カッコいいです! サー・ポーロ士爵に目にもの見せてやりましょう! えいえいおー!」
リーリアも俺の秘書として悔しい思いをしてきたからだろう、その声はウキウキと弾んでいる。
「おうともよ。一応、ライオットさんたちには根回ししとかないとだけど、ライオットさんもそろそろキツイみたいなことを言ってたから、背中は押してもらえると思う」
「むしろ今までよくバレずに来れましたよね」
「一にも二にも、情報封鎖をしてくれているライオットさんのおかげだな。だがそれも難しいみたいだし、タイミングとしてはここかなって」
「ここまで頑張ってくれたライオットさんには、感謝してもしきれませんね」
サー・ポーロ士爵に漏れるのは時間の問題だろうというのが、この前ライオットさんに会った時に聞かされた見立てだった。
そして実際にシノビから、例のドラ息子のシグマに関する報告が上がってきた。
これはもう行くとこだろ。
「あとは多分だけど、先入観も大きかっただろうな」
「先入観ですか?」
「冒険者ギルドは絶対に移転するはずがない、できるはずがないっていう先入観が、サー・ポーロ士爵の目を曇らせたのさ」
なんか変だな、と思う機会は絶対にあったはず。
だがサー・ポーロ士爵はそのサインを見落とした。
先入観が見落とさせたのだ。
俺たちの行動という外的要因だけでなく、サー・ポーロ士爵自らの内的な原因によって、発覚がここまで遅くなったのだ。
「そんなこと普通は考えもしませんもんね。私も最初はびっくりしましたもん」
「そういやリーリアは初めて伝えた時に、それはもう盛大に驚いてたよな。えええええええ! ってさ」
懐かしいやり取りが頭に浮かんできて、俺はつい思い出し笑いをしてしまう。
「もぅ、茶化さないで下さいよぉ。あれは人生で一番ってくらいに驚いたんですからね?」
「あはは、ごめんごめん」
ぷんすか怒っ(た振りをし)てほっぺを膨らませるリーリア。
しかし俺がご機嫌取りで頭をなでなでしてあげると、リーリアはすぐに嬉しそうに目を細めた。
「でも本当にここまで頑張ってきましたよね」
「ああ。この一大プロジェクトがここまで無事に進められたのは、リーリアも含めて同じ未来を目指す仲間たちが、全力で秘密を守り抜いてくれた結果だ」
ライオットさんだけでなく、俺たちも定期シノビ便でやりとりをバレないようにしていたし。
エスコルヌ女子爵もサロンなどで上手く立ち回ってくれた。
「まさか裏でこんな大同盟ができているなんて、サー・ポーロ士爵は思ってもみないでしょうね。ふふふっ♪」
「どんな顔をするか、今から楽しみだよ。ってわけで、ちょっと勝負してくるな」
「あーあ、私もその場にいられたらなぁ」
残念そうにつぶやくリーリア。
「連れて行ってあげたいけど、サー・ポーロ士爵はイレギュラーを嫌うからさ」
「はい、知っています」
とかく隙を見せればネチネチと文句を付けてくるのがサー・ポーロ士爵という人間だった。
そうなると進む話も進まない――というかウザい。
ただでさえウザいのに、もっとウザくなる。
「リーリアには土産話を一番に語ってやるから、いい子にして待っててくれよな」
「はーい」
さぁ勝負の時は来た──!




