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第53話 エスコルヌ・エスコート(2)

 だけど俺とエスコルヌ女子爵の間には、身分の差という壁がある。


「俺は平民ですよ」


「Sランク冒険者は、王国に多大な貢献をした者を国王陛下が任命する、冒険者ギルドの内部ランクとは切り離された極めて特別な地位。ゆえに手続きさえすれば士爵位を得られるはずですわよね? ほら、何の問題ありません」


「……よくご存じですね。これは当事者以外にはほとんど知られていない権利のはずですが」


 もちろん俺は当事者だから知っているが、たとえば俺の秘書をしているリーリアも、そんな権利があることは知らないんじゃないだろうか。

 言って回ることでもないしな。


「それはもう、わたくしフィブレ様についてはしっかりと念入りに調べましたので」

「大事な密約の相手ですからね。当然です」


 俺が一般論でこの話から逃げようとすると、


「今の返しは、この場面ではあまりよろしくありませんわね。わたくしの意図をわかったうえで仰られているのが、なおさらよくありません。訂正を求めますわ」


 マジレスを返されてしまう。

 腕も抱かれた状態だし、もう逃げ場はなさそうだ。


 俺は「ふぅ」と軽く息を吐くと、エスコルヌ女子爵の好意に正面から向き合うことにした。


「失礼しました。身分差を乗り越えようというのです。俺のことを調べるのは当然です」


 エスコルヌ女子爵は、俺たちの身分の差を乗り越えるいい手はないかと探していくうちに、俺の持つ特別な権利に気が付いたのだ。


「ちなみにフィブレ様が爵位の申請をしていない理由を、お聞きしてもよろしくて?」


「単純に面倒くさいからですよ。貴族って柄でもありませんし、平民は楽ですから」


 着飾ってサロンに行って談笑しながら優雅にワインを傾けるとか、どう考えても俺の性分じゃないからな。

 ギルドマスターですら正直、向いてないなって思うのに、いわんや貴族をや。


 そんな俺と同じ考えを持っているのだろう、多くのSランク冒険者もこの権利を申請してはいなかった。


「ふふっ、貴族の地位にまったく執着しない。実にフィブレ様らしくて素敵だと思いますわ。どこかの誰かさんとは大違いです」


 多分、爵位を金で買ったサー・ポーロ士爵のことを言っているんだろうな。


 そしてエスコルヌ女子爵は領地持ちの貴族で、美しく聡明な女性で、物腰は柔らかで、機転が利いて、なにより移転の密約の最初の共犯者だった。


 あれ以来、俺とエスコルヌ女子爵はずっとやり取りを続け、自然と仲も深まってきた。

 俺としても少なくない好意を抱いているし、男としてもとても魅力的な女性に映っている。


 だけど俺には別の女の子が――リーリアという大切な女の子がいた。


 一生懸命な頑張り屋さんで、事務仕事のスペシャリストで、俺を一から育ててくれた先代ギルマスのお孫さんで、今は俺の秘書も務める可愛いリーリア。


 俺は気が付いた時にはリーリアにうっすらと好意を抱いていたし、リーリアからの好意もそれとなく感じていた。


 エスコルヌ女子爵とリーリア。

 2人の女性への好意を俺は今、改めて自覚させられていた。


「もちろん、今すぐにどうこうとは申しませんわ。千里の道も一歩より、と古来より申します。まずはわたくしのことをもっと知ってもらうことが肝要でしょう。今日のエスコートでその最初の一歩を始めるくらいは、よろしいですわよね?」


「もちろんです」


 これだけまっすぐに女性から好意を向けられながら、無下に断って恥をかかせるなんてのは、もはや失礼を通り越して人としての道を踏み外している。


「ふふっ、ありがとうございますフィブレ様。では早速、案内を始めましょう。まずはこちらがエントランスホールになりますわ。入り口がここで、機能性を優先してそちらに――」


 エスコルヌ女子爵は俺にピタリと身体を寄せたまま、新ギルド施設内部の説明を始めた。


 俺はエスコルヌ女子爵の柔らかさや温もりを妙に意識してしまいながらも、それでも施設に関する説明をしっかりと頭に入れていく。


 なにせここは、俺たち冒険者ギルドがずっと手にしたかった新しい家なのだから――。

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