第50話 ◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇ (上)ついにサー・ポーロ士爵は情報を得る。
◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇
サー・ポーロ士爵はその日、執務室で冒険者ギルドの契約更新についての書類を改めて確認していた。
見れば見るほどウッハウハのウッキウキになる、賃料が2倍の新たな契約書である。
しかしそこには絶対に必要な冒険者ギルド側のサインが、いまだ空白のままになっていた。
「まったく、何をしようが結果は変わらんのじゃから、さっさと受け入れれ楽になればよいものを、グダグダ言ってサインを渋りおってからに。チキンレースには応じる気はないと、あれほど言っても理解せんとはのぅ。あのギルドマスターめが、Sランクなどと呼ばれてちやほやされて調子に乗っているようじゃが、しょせんは無学の冒険者よ」
サー・ポーロ士爵は愚かな若者の顔を思い出し、やれやれと溜め息をついた。
「ワシが譲歩すことは絶対にない。ゆえに交渉の余地も存在しない。なぜそんな簡単なことがわからぬのか、不思議でしょうがないわ。契約更新の日はもう3カ月ほどに迫っているというのに。とっととサインをして欲しいものじゃのぅ」
イライラしているからか、サー・ポーロ士爵の愚痴は止まらない。
「すぐ終わるべき仕事が終わらないなのは、不愉快なものじゃのぅ。次の定例協議もゴネてくるに違いないて。いやはや最近の若者の強欲さと来たら、ほんに嘆かわしいものじゃわい」
などと金にガメツイ自分のことは棚に上げ――今も昔もこういうヤカラは得てしてダブルスタンダードなのだ――相変わらずのウエメセで高級なイスにふんぞり返っていたのだが。
「親父! 親父! 大変だ! ヤベェことになってるぞ!」
ドタドタドタドタ――っ!
けたたましい足音が聞こえてきたかと思うと、執務室のドアが荒っぽく開けられ、ドラ息子のシグマが血相を変えて飛び込んできた。
「これシグマ。ドアくらい静かに開けんか。ワシらはもう貴族なのじゃぞ。相応の振る舞いを心掛けるようにと、いつも言っておるであろう」
サー・ポーロ士爵は内心で深いため息をつきながら、それでも可愛い息子とあって、やんわりと優しくたしなめる。
「そんなこと言ってる場合じゃねーんだよ!」
だがドラ息子のシグマはサー・ポーロ士爵の諫言を右から左に聞き流すと、がなり立てるように言ってきた。
サー・ポーロ士爵はこれ以上言っても無駄だと諦めると、話の先を促す。
「で、なにが大変なのだ?」
「何がって! ノースランドに建設中の施設だよ! オレは見ちまったんだ!」
「冒険者ギルドの訓練場のことか? 訓練のためにイチイチあんな田舎町まで行かねばならんとは、ご苦労なことよのぅ。くくく……」
(普段からろくに仕事もせずに、今日も貴族の子弟とキツネ狩りをしにノースランド近くの荒れ地に遊びに行ったかと思えば、今さらそんなことを言っておるのか。
我が息子ながらどこで育て方を間違えたのかのぅ。
しかしノースランドと言えば、温泉が出るらしいのはよいことじゃの。
エスコルヌ女子爵と一緒に温泉としゃれこむのもまた一興じゃて。
むふふ……)
などとありもしないスケベな妄想に浸るサー・ポーロ士爵はしかし、続くドラ息子のシグマの言葉に耳を疑った。
「あれは訓練場なんて規模じゃねぇっての! それこそ冒険者ギルドがそのまま入りそうなでかい規模だったんだ!」
「な、なんじゃと?」
「うちが今、アイツらに貸してる施設よりも、もっとでかいのが建ってるんだよ!」
「な――っ」
サー・ポーロ士爵は驚きのあまり、目を真ん丸に見開いた。




