第5話 ギルマスの仕事……?
執務室を出た俺は、冒険者ギルドのエントランスホールへと向かった。
エントランスホールは、単に施設の入り口というだけではない。
クエストが張り出されたり、冒険者たちが情報を持ち合って情報交換をしたり、事務スタッフが常駐し各種手続きをするためのカウンターがあるなど、冒険者ギルドの顔ともいえる場所だ。
そこで何かクエストを受ける――わけではもちろんなく。
次のクエストの攻略計画を練るベテラン冒険者や、クエストリストを見てどのクエストに挑むのか必死に検討している若手冒険者たちを横目に、俺は手続きカウンターの脇まで歩いていった。
「あらフィブレさん、何か御用ですか?」
「ああいや、なんでもないよ。ちょっと備品の修理に来ただけだから」
話しかけてきた事務スタッフを軽く手で制すると、
「あった。これだな。悪いけど、ちょっと持っていくね」
壁に立てかけてあった壊れたイスを拾い上げた。
イスは足が1本、完全に折れてしまっていて、とても使い物にならない状態だ。
俺はそれを持って、今度は材木置き場へと向かう。
何をするのかって?
今からこの壊れたイスを修理するのさ。
なぜそんなことをギルマスの俺がやるかって?
んなもん、お金がないからに決まってるだろ。
冒険者にはガッツリ稼いでもらわないといけないし、事務方などの裏方はかなり人数を抑制しているから、暇なんてあるはずもない。
となれば、こういったその他のアレやコレやの雑務は、ギルマスである俺がやらなければならないわけで。
「まずは折れた足を外して、と」
釘を綺麗に抜いてからガタガタと揺らすと、折れたイスの足はいとも簡単に外れた。
次に材木を適度な長さに切り、嵌め合わせ部分を削って調整すると、折れた足の代わりに嵌め込んで、さっき抜いた釘をカンカンとしっかり打ち付けて固定する。
「これでよし、と。左右のバランスも問題ない」
最後にニスの入ったツボを開けて、イス全体にニスを塗り直したら完成だ。
鼻歌を歌いながらチャチャッと手際よくニスを塗り終えると、
「後はニスが乾くのを待つだけだ」
綺麗に修復されたイスを見て、いい仕事をしたもんだと俺は内心で自画自賛した。
こういった備品の修理も、すっかり板についてきた俺だ。
すると、
「おや、ギルマスじゃないですか。今日はイスの修理ですか? いつも精が出ますなぁ」
通りがかった掃除スタッフのお爺ちゃんに声をかけられた。
お爺ちゃんと言っても、この人も元・冒険者。
しかも現役時代はファイターだったのもあって、年老いてなお背筋はピンと張り、筋肉質な肉体を維持していた。
ちなみに掃除スタッフは、引退後のいわゆるセカンドキャリアだ。
「直せばまだまだ使えますからね。これも経費削減の一環です」
俺はギルマスとはいえ、相手は冒険者としての大先輩。
当然、それなりに丁寧に言葉を返す。




