第49話 ギルマスざまぁ同盟(終)ミネアとの大勝負(後)
「じゃあ次は俺の番だな」
俺は2つのサイコロを、1が上を向くようにさりげなく調整しながら、指でつまみ上げるようにして持ち上げた。
「分かってるなフィブレ。お前が勝つには6を2個同時に出さなきゃダメなんだからな? いいか、6のゾロ目だぞ」
「わかっているよ。気が散るからグラハムはちょっと黙っててくれ。集中したいんだ」
「お、おう。すまん」
俺はむやみやたらと声のでかいグラハムを静かにさせると、「すー、はー」と深呼吸をする。
大丈夫、俺なら出せる。
狙って6を2つ出してみせる。
俺がやろうとしていることの原理はとても簡単だ。
1の目を上にした状態で一回転半、転がす。
そうすれば必ず6が出る。
ただそれだけのことだ。
あとは2つのサイコロを綺麗に一回転半、転がせるかどうかだけ。
最近は暇さえあればいつも練習していただろう?
練習では2回に1回は成功している。
つまりニブイチで上振れを引けばいいだけのこと。
グラハム、ライオットさん、ミネア。
3人のギルドマスターの視線が俺の手元にジッと注がれる中、
「すー、はー」
俺はもう一度深呼吸をして気持ちを落ち着けると、暴れドラゴン討伐戦の時を思い出すような極限の集中力でもって、2つのサイコロを振った。
コロン、コロン。
極限まで神経が研ぎ澄まされているから、サイコロの動きが老人の動作のようにスローモーションに感じる。
まずは1回転。
いいぞ、行け!
コロン――コロン。
2つのサイコロは綺麗に1回転半し、見事に6のゾロ目となった。
「ふぅ……!」
サイコロが完全に制止したのを見て、俺が緊張の息を吐きだすと、場の空気が一気に緩んだ。
「うおおおお!? フィブレ! お前やるじゃねーか! 6のゾロ目だぞ! 嘘だろおい!」
グラハムがでかい声で騒ぎたて、俺の背中をバシバシと叩く。
「あはははは! いいねいいね! アタイの負けさね! フィブレ、飲食ギルドはあんたに全力ベットだよ!」
ミネアは人好きのする笑みを浮かべた。
「お見事でした。さすがは王国内に10人しかいないSランク冒険者ですね」
ライオットさんもいつもの柔らかな笑みを浮かべながら、パチパチと小さく手を叩いて祝福してくれる。
「一応聞いておくんだが、イカサマを疑わないのか?」
俺がやったのはイカサマではなく、あくまでテクニックの範疇だとは思うんだが、かといって完全な運任せというわけでもない。
「急な二次会でイカサマダイスを持っていたのなら、その用意周到さはそれはそれで信用できると言うものですよ」
「だははっ、違いねぇ!」
「こーらフィブレ。勝ったんだからもっと男らしく堂々としなさいな。リーダーってのはね。いついかなる時でも、胸を張るもんさね!」
ミネアは力強く言うと、右手をグーにして俺の方に突き出してきた。
「もしかして、冒険者ギルドの『誓いの拳』か?」
冒険者ギルドではパーティの結束を高めるために、パーティメンバーが拳を同時に合わせるという古い風習があった。
古すぎて最近はほとんど廃れてしまっているんだが――ぶっちゃ俺も知識で知っているだけで実際にはやったことはない――どうやらミネアはその古い習わしを知っていたようだった(本当に何歳なんだよ?)。
「このヤマのリーダーはフィブレだからね。そっちの流儀に合わせるのは当然さね」
「あいかわずミネアはいいこと言うな!」
「そういうことでしたら、ぜひに」
ミネアに続いて俺、グラハム、ライオットさんも同じく右拳を突き出す。
まるで誓いの盃を合わせるように、4つの拳がコツンと軽くぶつかった。
こうしてエスコルヌ女子爵との間に結ばれた、冒険者ギルド移転の密約に続き。
商人ギルド・冒険者ギルド・武器防具ギルド・飲食ギルドの間で、秘密裏の移転協力の盟約が結ばれたのだった。




