第46話 ギルマスざまぁ同盟(3)未来のため
「ギルド移転の密約に浮足立つことなく、今まで通り振る舞うことは大事なことでしょう。ですが切羽詰まった様子をチラリとでも見せた方が――つまり小さな隙を見せた方が、今の状況ではより『それっぽい』のではないでしょうか?」
「──っ」
「もちろんこれは、今はまだ部外者である私の、単なる私見にすぎませんがね」
ライオットさんは柔らかな口調でそう付け足したが、ライオットさんの意見はまったくもって正鵠を射ていた。
普通じゃなく焦った姿を見せた方が、サー・ポーロ士爵は油断する、か。
なるほど、勉強になった。
「ははっ……降参、お手上げだ。さすがは海千山千の商人たちを取り仕切る、商人ギルドのギルドマスターだな。ハンパない洞察力と改善提案だ。アドバイスはありがたく受け取らせてもらうよ」
俺はライオットさんを手放しで褒め称えた。
ライオット・フリーマンの立身出世エピソードが自然と思い出される。
固定の店を持たない一介の旅商人から、ポロムドーサという地方大都市の商人ギルドのギルドマスターへと、己の実力のみでのし上がった叩き上げの中の叩き上げ。
仲間に対しては情があつく、しかし敵に対しては時に鋭く牙を剥く。
百戦錬磨の商人の王。
さすがと言う他はなかった。
「偉大なSランク冒険者フィブレ・ビレージにお褒めいただけるとは、身に余る光栄です。よければ後でサインを頂けませんか? 実はあなたのドラゴン討伐の冒険譚を読んで以来、ファンになってしまいまして」
と、ライオットさんがこの瞬間だけは子供のような無邪気な瞳を見せると、一冊の本を取り出した。
「その本は──」
「若き英雄冒険者フィブレのドラゴン討伐鮮烈伝。差し支えがなければ、ぜひ表紙裏にサインをいただければと」
それは有名な吟遊詩人が歌ったドラゴン討伐の詩曲を、物語調に書き記したもので、主人公はなんと俺である。
記念に1冊もらったのがギルマス執務室にも置いてあった。
俺は本読みがあんまり好きじゃないんで、挿絵だけチラ見しただけで中身を読んだことはないんだが。
っていうか自分の話を読んでもしょうがないだろ?
とりま俺の話はおいといてだ。
今の返しもなかなかできないよなぁ。
俺の冒険譚のファンなのはきっと嘘ではないんだろうが――こう見えて俺は王国内に10人しかいないSランク冒険者だからな!――それと同時に今回の件に口を挟むにあたって、俺のことはかなり念入りに調べましたよ、と言っているのだから。
なにせ仕事ができることで有名なライオットさんだ。
俺の知っていることはもう、ほとんど知られていると思って間違いない。
今のはライオットさんのそういう意思表示だった。
「サインなら後でいくらでも書くさ。それで? 冒険者ギルド移転の密約を知ったライオットさんは、何をどうしたいんだ? 腹を割って話そうぜ」
こうなったらこっちも真っ向勝負で話すしかない。
ライオットさんがやったように俺も単刀直入に意図を尋ね返した。
「話が早くて恐縮です。結論から言えば、この話、私にも一枚嚙ませていただきたい」
「ライオットさん個人じゃなく、商人ギルドがってことだよな?」
「ええ。私を筆頭とする上級幹部会で極秘裏に話し合った結果、私たち商人ギルドは冒険者ギルドに味方することを、全会一致で決定しました」
「商人ギルドはサー・ポーロ士爵と互角以上にやり合ってるって聞いてるけど? なら敢えて俺たちに味方する積極的な理由はないんじゃないか?」
今でも上手くやれているなら特段、リスクを取って状況を変える必要もないはずだ。
「もちろんこのまま、やっていけないことはありませんがね。ですがそれじゃあ未来がないでしょう?」
「未来?」
「私はね、せっかく何でもできる地位を手にしたというのに、サー・ポーロ士爵の愚政に付き合って、十年も二十年もだらだらと人生を無駄にしたくはないんですよ。人生は一度きり。私にとってこの話は次のステップへと進むための、降って湧いた大チャンスなんです」
「気持ちはわかるな。俺たちが移転を決めたのも、未来のためだ」
未来、いい言葉だ。
「そうです、我々の未来のために、今日はこの場を設けさせてもらったわけです」
俺が未来という言葉に反応したからだろう、ここぞとばかりにライオットさんの言葉に熱がこもる。
いつも柔らかい笑顔を浮かべながら、冷静沈着に物事を進めるライオットさんにしては珍しいことで、それだけこの件に本気なのだと伝わってきた。
もはや余計な美辞麗句は必要ない。
俺は話の核心へと一気に踏み込んだ。
「それで商人ギルドは何を欲していて、対価として何を提供してくれるつもりなんだ?」




