第43話 ◇エスコルヌ女子爵 SIDE◇「援護射撃」(2)
「冒険者ギルドの奴らめが貴方に何か苦情でも言ってきましたら、ぜひワシをお頼りください。なーに、どんなことでも、ワシがピシャリと言って聞かせますからのぅ」
好意を寄せるフィブレを理不尽にけなされ、エスコルヌ女子爵は内心、怒り心頭だった。
(まったく、さっきから延々とつまらない自慢話ばかりして、本当に気分が滅入りますわね。
しかも誰かを下げて、自分を上げるような話でしょう?
聞いているだけで気分が悪くなりますわ。
それもよりにもよって、わたくしの愛しいフィブレ様を悪しざまに言うなんて。
あーやだやだ)
が、もちろん、エスコルヌ女子爵はそんな気持ちはおくびにも出さない。
エスコルヌ女子爵は優雅にワインを傾けながら「なるほどですわね」「それでどうなりましたの?」などと、サー・ポーロ士爵の話に笑顔で答え、好意的に見える相槌を打ち続けた。
(せっかくの20年物の美味しいワインも、他人をバカにするしかできないスケベ心丸出しのおじさん貴族と一緒では、美味しさも半減ですわね。
サー・ポーロ士爵も、他の貴族たちから冷笑されているのをわかっていないのかしら?
周囲の冷めた視線に気付いていないのは当人だけ……)
それでも貴族の嗜みとして。
さらにはこうやってサー・ポーロ士爵の機嫌を取ることが、回りまわってフィブレの援護射撃になると思いながら。
エスコルヌ女子爵がしばらく、サー・ポーロ士爵のつまらない自慢話に付き合っていると、
「そうそう、冒険者ギルドといえば、訓練場をノースランドに建設中だそうですな」
サー・ポーロ士爵が「例の話題」を振ってきた。
(あら、まさか探りを入れて来たのかしら?
今までの冗長なやり取りは前振りを兼ねた、わたくしを油断させるための計略だった?)
エスコルヌ女子爵は頭の中で警戒心を一気に高めると、事前に用意していた答えを語ってゆく。
「幸いなことにノースランドは荒地ばかりで、土地がたくさん余っておりますわ。冒険者ギルドの皆様には、魔獣の討伐などで大変お世話になっておりますので、こうした形でお返しできればと思いましたの」
「ほぅ! なんと素晴らしいことでしょうや! 荒くれ冒険者なんぞのためにも心を配る。実に素晴らしいことですな。まさに貴族はこうあるべきという見本のようです。ワシは心の底より感服いたしましたぞ」
(よくもまぁ全く思ってもいないことを、いけしゃあしゃあと言えたものね。
さっきまで冒険者ギルドをあれほど悪しざまに語っていたというのに。
この男は恥という概念を持っていないのかしら?)
エスコルヌ女子爵はもう心底、呆れ返っていた。
同時に、サー・ポーロ士爵が、何も気付いていないと判断して安堵する。
「ありがとうございます。これを機にノースランドが少しでも発展するよう、上手く持っていければと思っておりますの」
「実に良い心がけですな。いや、実に素晴らしい!」
サー・ポーロ士爵はさらに話を続けようとしたのだが。
「それではわたくし、そろそろ他の皆さまにもご挨拶に回りますわね。こんな時でないと会えない方も多いですし」
そう言うと、エスコルヌ女子爵はサー・ポーロ士爵の返事も待たずに立ち上がった。
「そ、そうですな。挨拶回りは必要ですな……」
わずかに気を落としたそぶりを見せるサー・ポーロ士爵。
(これだけ相手をしてあげたのだから、もう十分でしょう?
かれこれ30分は付き合いましたわよ?
おかげであなたが何も気付いていないことを、わたくしは知ることができましたけれど)
エスコルヌ女子爵は会釈をすると、他の貴族へとあいさつ回りを始めた。
それでもサー・ポーロ士爵は、若く美しいエスコルヌ女子爵に自慢話を語り聞かせてそれなりに満足はしたようで、
「なかなか悪くない雰囲気じゃったのぅ。これは早晩、あの女もワシのものにできそうじゃわい。くくく……」
などと見当違いも甚だしいことを思いながら、ドレスで着飾ったエスコルヌ女子爵の形のいいお尻を、スケベな視線を隠しもせずに眺め続けていたのだった。
◇エスコルヌ女子爵 SIDE END◇




