第42話 ◇エスコルヌ女子爵 SIDE◇「援護射撃」(1)
◇エスコルヌ女子爵 SIDE◇
エスコルヌ女子爵はその日、この辺りの貴族が一堂に会する会合――地域サロンに参加するべく、ポロムドーサの街へと訪れていた。
敵情視察――ということは特になく。
エスコルヌ女子爵はごく普通に表通りを観光し、土産物屋で尽くしてくれる使用人たちへの感謝の品をいくつか買ってから、サロンが開催されるサー・ポーロ士爵の屋敷へと馬車を向けた。
「できれば冒険者ギルドに足を運んで、フィブレ様のお顔を拝見したいところなのですけれども。それが原因でサー・ポーロ士爵に怪しまれてしまっては、元も子もありませんわ。残念ですが、今日の所は仕方ありませんわね」
どれだけ警戒しても警戒しすぎることはない。
なのにわざわざ町はずれにある冒険者ギルドまで足を運ぶのは、自ら疑惑を招いているようなものだ。
幸い、新しい冒険者ギルド施設の建設は、おおむね順調に進行している。
「今はまだ我慢の時。今、わたくしが為すべきことは、サロンに行ってサー・ポーロ士爵に余計な疑いを与えないようにする、これに尽きますわ」
馬車に揺られながら、エスコルヌ女子爵はしっかりと為すべきことを見定めていた。
ちなみにこの独り言は、馬車に同乗しているお付きのメイドに丸聞こえなのだが。
このメイドは先祖代々エスコルヌ家に仕える、最も信頼のおける使用人のため、密約の存在が聞こえてしまっても問題はなかった。
言ってみればフィブレがシノビに実質、密約の存在をバラしているのと同じようなものだ。
ちなみについでに、このメイドは御者と共にエスコルヌ女子爵の護衛を兼ねており。
可愛らしいカチューシャ、上品な仕立てのメイド服、外行き用のブーツ。
そのいたるところ短刀や寸鉄、投げナイフといった暗器をいくつも隠し持っていた。
シノビほど飛び抜けた技能は持っていないものの、野盗程度ならば十分に相手をできる。
エスコルヌ女子爵に限らないが、女貴族というものはなにかと用心しなければならないのである。
それはさておき。
エスコルヌ女子爵はサー・ポーロ士爵の豪奢な屋敷に到着すると、お付きのメイドを引き連れながら、優雅な足取りでサロンへと顔を出した。
すると早速、サー・ポーロ士爵が、下卑た笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「これはこれはエスコルヌ女子爵。本日は我が屋敷までご足労いただき、誠にありがとうございます」
「ごきげんよう、サー・ポーロ士爵」
エスコルヌ女子爵が優雅に挨拶を返すと、
「ささっ、どうぞこちらへ。いいワインがありましてな。王都より取り寄せた20年ものですぞ」
サー・ポーロ士爵はそう言って、さりげなく腰――というか尻に手を回そうとした。
が、エスコルヌ女子爵はそう来るだろうと予測しており、サー・ポーロ士爵の手をあっさりかわすと、
「それは楽しみですわね」
にっこり笑って歩き出した。
そしてくだんのワインを味わいながら、スケベ心を丸出しにしてしつこく絡んでくるサー・ポーロ士爵の相手を始めた――。
「それでワシはそやつに言ってやったのですよ。嫌なら出ていけばいいとね。そうしたら奴め、意気消沈して黙り込みましたわい。ハハハハッ!」
サー・ポーロ士爵がワイングラスを片手に、自慢げに語る。
それにエスコルヌ女子爵は笑顔を絶やさないまま、相槌を打つ。
「あら、そうでしたの」
『そやつ』とはもちろんフィブレのことである。
話し出してからずっと、サー・ポーロ士爵は冒険者ギルドとの交渉を――優越的地位にかこつけて一方的に言って聞かせるだけのものを交渉と呼ぶかは甚だ疑問だが――まるで武勇伝のように、エスコルヌ女子爵に熱く語り聞かせていた。




