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第41話 サー・ポーロ子爵との定例協議~心の中で牙を研ぐ~

 そんな風にギルドマスターとして忙しい日々を続けながら。


 同時に移転の密約についてやり取りをしないといけないのもあって、以前よりも俺の仕事は大変さを増していた。


 だがギルド移転という未来への希望があることは俺の心を強く、そして軽やかにしてくれる。

 毎日の充実感が半端ないのだ。


 難クエストに苦戦している時に、攻略の糸口が見えた瞬間の目の覚めるような強烈な気持ちを、俺は思い出していた。



 そんな中、サー・ポーロ士爵との定例協議がこれまたいつもと同じように行われた。


 場所もいつも通り、サー・ポーロ士爵の屋敷にある執務室で。

 サー・ポーロ士爵はイスにふんぞり返り、俺は机を挟んで正面に立つ。


 定例協議が始まるとすぐに、サー・ポーロ士爵はとある話題を持ち出してきた。


「風の噂で聞いたのじゃがの?」


「なんでしょうか」


「なんでも訓練場の移転先が決まったのだとか?」

「お陰さまでなんとか形になりつつあります」


 決まったのは訓練場の移転先だけじゃあないがな。

 もっと大きな密約が裏では進んでいるぞ。


 それもこれもサー・ポーロ士爵、あんたのおかげだよ。

 あんたが俺たち冒険者ギルドから、好き勝手に金を巻き上げようとしたこと。


 さらにはエスコルヌ女子爵にスケベなことをしようとしたせいで、貴族仲間からも買わなくてもいい恨みを買っていたこと。


 他のギルドからの評判もすこぶる悪い。


 ボロい施設とか縛りが多いとか、そういったことは根本的な原因じゃない。

 根っこにあるのはサー・ポーロ士爵、あんたそのものだ。


 あんた自身が、移転の密約ができた最大の理由なのさ。


 心の中で「ざまあみろ」と言ってやる。

 もちろん顔には全く出さず、俺はいつものように丁寧な対応を心掛けた。


「移転先はノースランドとか。よりにもよってあんな小さな田舎街に作るとは、大変じゃのぅ。ポロムドーサからは片道2時間半はかかるじゃろうて。いや、貴様ら冒険者にはいい運動になるか。クックックク……」


「どうしても必要な施設ですので、ある程度の不便はやむをえません」


 ただし今はまだ、な。

 その時が来るのを楽しみにしていろ。


「そうかそうか。まったく大変じゃのぅ。クククッ」


 何も知らないサー・ポーロ士爵は、相も変わらずのウエメセで、バカにしたように笑いながら好き放題に言ってくる。


「…………っ」


 言われ放題のまま、わずかにうつむいて黙り込む俺だったが――内心ではずっと「今に見ていろ」と牙を研ぎ続けていた。


 まだ決して態度に出してはいけない。

 今の俺の「仕事」は、サー・ポーロ士爵にこれまで通り好き放題にいたぶられることなのだから。


 ひたすら「今までの俺」を演じるのだ。

 悔しげな表情を作ってサー・ポーロ士爵を油断させ、じっと静かにその時を待つのだ。


 今までは苦しいだけだったが、もう違う。

 密約という希望さえあればサー・ポーロ士爵、もはやお前など俺の敵ではない。


「田舎町とはいえ、移転の費用もバカにならんじゃろうて? やはり冒険者ギルドには金があるようじゃの。賃料を上げることにして正解じゃわい」


「そのことですが、なんとかなりませんでしょうか? さすがに2倍の賃料というのは無理が過ぎると言うものです。せめて何か別のことで代用することはできませんか?」


「これは決まったことじゃと言ったであろう。次の契約更新からは賃料は2倍。このこと、もはや議論には値せぬ」


「そんな……! どうか、どうかもう一度お考え直しをいただきたく!」


 どうだ?

 迫真の演技だろう?


「嫌なら出て言ってくれていいんじゃよ? 出ていく先があるならのぅ」


 俺が内心で牙を()いでいるとも露知らず、サー・ポーロ士爵はお決まりのフレーズを言い放つ。


 ああ、いいぜ。

 言われなくても出ていってやるさ。


 なにせもう、出ていく先があるからな。


「そこをなんとか――」

「ならぬ」

「く……っ」


 俺は「いつものように」必死にサー・ポーロ士爵に食い下がり、徹底的にいたぶられ続けたのだった。

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