第4話 シゴデキなリーリアは、フルーツタルトがお好き♡
「それでリーリア。この前、ギルドのメンバーに要望アンケートを取ったよな? あの資料ってどこにあったっけ」
俺が話を振ると、リーリアは間髪入れずに答えてくれる。
「それでしたら、こちらをどうぞ。まとめてついでに、要望が多かったものから順に上から書き出してあります」
「それは助かるな」
俺はリーリアから手渡された資料を上から順に見ていった。
飯がまずい。
飯が高い。
量が少ない。
ビールが薄い。
店を閉めるのが早すぎる。
設備がぼろい。
エントランスホールのイスが壊れた。
風呂がぼろいetc...
文句がそれはもう山のように連なっている。
そしてそれらはどれもこれも、納得せざる得ないものだった。
というか俺自身も普段から感じている不満ばかりだ。
「食事の改善とか営業時間は勝手に変更できないから、現状では無理として。……とりあえず俺がやれそうなのは、これと、これと、これか。よし、ちょっくら行ってくるよ」
どうにかなりそうないくつかの要望を見繕うと、俺は腰を上げた。
古びたイスがギィと嫌な音を立てるが、気にしない。
「お手伝いはいりませんか?」
「こっちは一人で大丈夫だよ。リーリアはリーリアの仕事をしてくれ」
実はリーリアは俺の秘書であると同時に、事務方のトップも兼任していた。
兼任している理由はもちろん経費削減だ。
リーリアほどの有能な人間ともなれば、雇ったら相当高くつく(経理ができる人ってマジで高いんだ)。
もう1人を雇う資金なんてもんは逆立ちしたってありはしないので、リーリアに兼任してもらっているというわけだった。
冒険者が最大のパフォーマンスを発揮できるように、事務方の仕事は多岐に渡る。
お金や冒険者の管理業務に始まって。
色々なところからくるクエスト依頼を精査して、それを掲示し。
クエスト報酬を算定したり、外部とのやり取りもする。
近頃の様々な情報をまとめて「危険情報!」「お役立ち情報」などとして掲示するのも、これまた冒険者をサポートする大切なお仕事だ。
むしろギルマス秘書の仕事の方が、ついでみたいなものだろう。
「わかりました」
「いつも悪いな。リーリアには負担ばっかりかけちゃってさ」
「いいえ。こんな大変なギルドのギルマスを引き受けてくれたフィブレさんのためですもん。サポートくらい、いくらだってやっちゃいますから。何でも言ってくださいね」
リーリアは笑顔とともに、右腕で力こぶを作るような仕草を見せる。
最後に見せてくれた可愛らしい姿に、俺は心の底からほっこりした。
ちなみにこの冒険者ギルドは元々、リーリアの祖父が運営しており、俺はそれを引き継いでギルドマスターになった。
なのでリーリアにとって、俺は『経営不振のおじいちゃんのギルドを引き継いでくれた恩人』なのだそうだ。
(俺としてはそんな恩着せがましいことは、これっぽっちも思っていないんだが)
ちなみについでに、俺は俺で駆け出しの頃にリーリアのおじいさんから冒険者のいろはを教えてもらったって縁もあって。
このポロムドーサ冒険者ギルドをなんとか存続させたいという思いは、人一倍強かった。
それはそれとして。
「じゃあまた後でな」
「はい。何かありましたら遠慮なく声をかけてくださいね。フィブレさんのためなら、たとえ火の中、水の中ですから」
「ありがとうリーリア。ああ、そうそう。言い忘れてた。夕食は一緒に食べないか? 実は帰りに『タルト・ア・ラ・レーヌ』に寄って、リーリアの大好きなフルーツタルトを買ってきたんだ」
「ほんとですか!? 嬉しいです♪」
「喜んでもらえてよかった」
「それは喜びますよぉ♪ 大好物なんですもん♪ でもポロムドーサの中心街に行かないと買えないので、なかなか食べられないんですよねぇ」
「冒険者ギルドは街の外れも外れにあるからなぁ。ギルド周辺に支店を出してくれたら十分、元は取れると思うんだけど」
大所帯&訓練場などの施設も必要な冒険者ギルドは、なにせ広い土地が必要だ。
必然的に立地は郊外になりがちだ。
「身体が資本の冒険者は飲み食いが大好きですし、食べる量も多いですからね。お金も持っているので、少々高くても美味しいものにはお金を落としますし」
「近くには武器防具ギルドや薬草ギルドだってあるし、周辺の人口はかなりのものだしな」
「ですよねぇ」
「でもこの辺りの出店の権限は全部、サー・ポーロ士爵に握られてて、自由にやらせてもらえないんだよなぁ。せめてそこだけでも、うちに委託してくれたら助かるんだけど」
サー・ポーロ士爵は自分に巨額の賄賂を渡す者にのみ、冒険者ギルド周辺での営業を認めていた。
その賄賂の分を取り戻すべく、近隣に出店した飲食店は軒並み高くて不味くて、量が少ない店ばかりになるという始末だった。
己の私腹を肥やすことしか考えていないサー・ポーロ士爵。
考えるだけで怒りがふつふつと込み上げてきたのだが、
「ふふっ、フィブレさん。また話が戻ってしまっちゃってますよ」
リーリアが苦笑しながら指摘してくれたおかげで、俺は平常心を取り戻すことができた。
「おっとと。悪い悪い、つい愚痴がね……。そういうわけだから、夕飯は一緒にな」
「楽しみにしていますね♪」
そう言うと、リーリアはギルマス執務室から足取りも軽く去っていった。
「さてと。話も終わったし、俺も一仕事してくるか」
ギルマスのやるべき喫緊の仕事。
それが何かというと――




