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第35話 3人目の共犯者(2)

「次にエスコルヌ女子爵との連絡についてだが。これはシノビを使おうと思っている」


「シノビさんをですか?」


「短いスパンで定期的にシノビを向こうに派遣するんだ。その時に文書を持たせてやり取りをする」


「なるほどです。シノビさんはバレないようにこっそり活動するのが得意ですもんね。しかも仕事熱心で、口も固いですし」


「ああ。シノビはSランク冒険者の俺ですら、気配を感知できないほどの凄腕だ。技能だけでなく人間性の部分も含めて、俺はかなり信頼している」


 これは俺の見立てだが、シノビは本当はSランク相当の実力を隠し持っているんじゃないだろうか?


 本人が冒険者ランクを上げることに全く興味を示さない上に、表に出ることを極端に嫌うせいで平凡なランクのままではあるのだが。


 異常に精度の高い情報収集能力。

 気配を完全に殺す以外にも、風向きをぴたりと当ててみせたりと知識量も豊富で、身体能力も抜群。


 当たり前じゃないことを当たり前のように平然とやってのける、それがシノビという冒険者だった。


 この密約を成功させるにはシノビの存在が欠かせないと、俺の直感は告げている。


「そこまで評価しているのに、シノビさんには密約のことは教えてあげないんですか? シノビさんなら絶対に漏らしませんよね?」


「言ってもいいんだけどさ? シノビはそういうの説明するのを嫌うんだよなぁ。俺が行動の意図とか理由を説明しようとすると、『それがしは主の命に従い任務を遂行する。ただそれだけゆえお気遣いはご無用』とか言うんだよ」


 何度も同じセリフを言われたので、いまや一言一句覚えてしまった俺だ。


「あはは、とってもシノビさんらしいですね」


「それにシノビなら密約の存在にもあっさり気付くんじゃないか? それくらいできちゃう奴だろうから」


「まったくもって同感です」


 俺たちは顔を見合わせると、小さく笑いあった。


「さてと。少し話がそれたが、これで俺はポロムドーサにいながら、エスコルヌ女子爵と綿密に連絡を取りあうことができるって寸法だ」


「とてもよい案かと。わたしも大賛成です」


「だろう? 名付けて『シノビ定期便』さ!」


 俺は帰り道で思い付いた改心の作戦名を、若干ドヤ顔で発表したのだが。


「そのまんまじゃないですか……。むしろ自分からバラしに行ってますよ、それ……。どうしてそれで行けると思ったんですか……?」


 リーリアは苦笑しながら、強めのマジレスを返してきた。


「……こほん。まぁ作戦名はいったん横に置いといてだ。とりあえずリーリアに伝えておきたいのはこんなところなんだけど、何か質問はあるかな?」


 リーリアは真剣な表情でしばらく黙考すると、にっこり笑顔になって言った。


「いいえ、特にはありません」


「無理やり巻き込んじゃって悪かったな。だけど俺にはリーリアの助けがどうしても必要なんだ」


 全てを話し終えた俺は、リーリアに謝罪の言葉を伝えるとともに、深く頭を下げた。

 だけどリーリアは明るい声色で言った。


「あはは、それは逆ですよフィブレさん」

「逆?」


「わたしを蚊帳の外でこの話を進めてたりなんかしたら、そっちの方がよっぽどしょんぼりですもん。フィブレさんはわたしのこと、信用してくれてなかったんだなぁって思っちゃいます」


「そう言ってくれると助かるよ」


 俺がリーリアの頭をポンポンと優しく撫でると、


「えへへへ……」

 リーリアは嬉しそうに目を細めたのだった。



 とまぁこうして俺は、リーリアをギルド移転の密約の共犯者に引き込むことに成功した。


 今までの苦しみが嘘のように、とんとん拍子で話が進むことにホッと一安心すると同時に、ここからが勝負だぞと俺自身に言い聞かせる。


 ノースランドへのギルド移転が完了するその日まで、何が起きても大丈夫なように全力を尽くす。

 どんな妨害があろうとも絶対に完遂してみせる。


 それがギルドマスターである俺に与えらえた使命だ──!

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