第32話「ご安心ください。このことは、わたししか知らない門外不出の極秘情報ですので♪」
しかし俺は、リーリアだけには「密約」を伝えようと思っていた。
そのことに関して、エスコルヌ女子爵の許可も取ってある。
なにせリーリアはシゴデキな上に、俺の秘書も務めている。
冒険者ギルド顔役は俺だが、心臓は間違いなくリーリアだ。
秘密裏の移転計画もリーリア抜きにこの話は進まない。
ゆえにリーリアには、俺たちの共犯者になってもらわなくてはならない。
俺が内心そんなことを考えているとも露知らず、リーリアはお菓子の箱を大事そうに抱えながら、のほほんと答える。
「ミーティングでしたら今からでも大丈夫ですよ。今日の業務はおおよそ終わっておりますので。もちろんフィブレさんの分もしっかり終わらせてあります」
「マジかー! 助かるー!」
リーリア自身の分だけでなく、まさか俺の仕事まで終わらせてくれているとは。
「いえいえ、泊まりで大きなお仕事をしてこられたフィブレさんのほうが、よほど大変というものです」
「ははっ、ありがと。じゃあ30分後に頼むな。場所は俺の執務室でいいか?」
「30分後ですね、承知しました」
「俺は今から部屋で仮眠を取ってくるな。昨日は遅くまで話し込んでてさ。もう眠くて眠くて」
「でしたらミーティングは明日以降でもいいのでは?」
「いいや。これは大事な話だから、なるべく早くリーリアには伝えておきたいんだ。だから今日の間にやってしまいたい」
「わかりました。もしフィブレさんが寝過ごしちゃったら、起こしに行きますね」
「大丈夫だとは思うけど、その時はサンキューな」
「フィブレさんの寝顔って、子供みたいで可愛いんですよねー」
「やれやれ、寝過ごさないようにしないとだ。そんな話を広められたらSランク冒険者フィブレ・ビレージの沽券に関わるからな」
「ご安心ください。このことは、わたししか知らない門外不出の極秘情報ですので♪」
ムフフ……と、リーリアが満面の笑みを浮かべた。
とまぁそんなこんなで、俺はリーリアとミーティングの約束を取り付けると、仮眠を取りに、ギルマス執務室の隣にある私室へと向かった。
ベッドに横になると、自然と言葉が漏れ出でる。
「状況を打破する光明が、ついに差してきたぞ」
ここ最近はずっと苦しい状況が続いていた。
ギルドの運営は火の車なのに、サー・ポーロ士爵は更なる値上げを宣告してきた。
稼ぎ頭のクラウスたちAランクパーティの面々は、将来を悲観して出ていってしまった。
だがエスコルヌ女子爵の提案で、状況は一変した。
「エスコルヌ女子爵は信頼できる人だ。俺のSランク冒険者としての勘がそう告げている」
となれば、あとは上手く事を運ぶだけ。
秘密裏にギルド移転計画を進めてゆくのだ。
「この移転計画が上手く行けば、全てがひっくり返る。なんとしてでも成功させるぞ。ふああぁ……」
熱い決意とは裏腹に、俺の口からは盛大なあくびが漏れ出でる。
まだ計画はスタートしたばかりだというのに、俺は少なくない安堵感を覚えていた。
おかげで俺は心底ぐっすりと眠ることができたのだ。
ZZZ……。
――そしてやっぱりというか、なんというか。
「フィブレさーん、熟睡中の所すみませーん。そろそろ起きてくださいねー。ミーティングのお時間ですよー」
俺はリーリアにとても嬉しそうに起こされてしまったのだった。




