第31話 ♪お土産を喜ぶリーリア♪
翌日の午後。
エスコルヌ女子爵との密約から1日たってもまだ、胸を昂らせていた俺が、意気揚々と冒険者ギルドに戻ってくると、すぐにリーリアが出迎えてくれた。
「お帰りなさいフィブレさん。遠出お疲れ様でした。エスコルヌ女子爵とのお話は上手く行きましたか?」
俺をねぎらいつつも――よほど気になっているのだろう――そわそわとした様子で本題の話を振ってくるリーリア。
「ああ。向こうもかなり乗り気でさ。いい条件で話がまとまったよ」
「本当ですか? 良かったぁ……」
リーリアがホッとしたように胸に手を置いた。
「それと、はいこれお土産。話がまとまった記念に、エスコルヌ女子爵からいただいたんだ。頼れる秘書がいるって言ったら、ぜひこれをお土産に渡してくれって言われてさ」
エスコルヌ女子爵から頂戴したお土産の木箱を、俺はリーリアに手渡した。
中身は紅茶とクッキーって言ってたかな。
甘いものが好きなリーリアは喜ぶはずだ。
「わっ、ありがとうございます。甘くていい香りがしますね。開けてもいいですか?」
「もちろんだよ」
木箱の中を見た途端、リーリアが大きく目を見開いた。
「わあっ! これって王都の有名なカフェの看板商品ですよ!」
「そうなのか? 悪い、俺はあんまりそういうことには詳しくなくてさ」
「イーシャ製菓って書いてますもん、間違いありません。イーシャ製菓の銘菓ブラック・ラバーズです! わぁ、嬉しいなぁ~♪」
「ブラック・ラバーズ? 黒い恋人? ってことはチョコクッキーなのか? まぁいいや。そんなに喜んでくれたって聞いたら、エスコルヌ女子爵もきっと喜んでくれるだろう。次に会った時に伝えておくな」
「はい。とても喜んでいたとお伝えください」
「そしたらまた貰えるかもしれないもんな」
「ちょっとフィブレさん! 私はそんなことは全然ちっとも思ってないですぅ!」
「あはは、冗談だよ冗談」
「もぅ、フィブレさんってば」
さっきからリーリアの声は小さな子供のように弾んでいる。
本当に嬉しそうで、見ているこっちまで幸せになれそうだ。
素敵なお土産をくれたエスコルヌ女子爵には、感謝感謝だな。
「それにしても、遠く離れた王都のカフェの商品とかよく知ってるな? いったいどこからそんな情報を手に入れてくるんだ?」
どうでもいいことなんだけど、純粋に疑問だった。
「チッチッチ。フィブレさんってば、女の子のスイーツネットワークをあまり過小評価するのは感心しませんよ?」
リーリアが少しお茶目な仕草で、右手の人差し指を立てて左右に振った。
「ごめんごめん。少し認識を改めておくよ。それと、後で時間を貰えるかな? 今回まとまった話をみんなに掲示するための文書を作って欲しいんだ」
シゴデキなリーリアは字も綺麗な上に、短文で要点をまとめるのも上手だ。
もちろん書いてもらうのは「嘘の話」なのだが。
今回のギルド移転の密約は、冒険者ギルドの人間にも基本的には伝えないでおくつもりだ。
まず秘密を知る人間は、少なければ少ないほどいいのは当然として。
冒険者ってのは総じてみんな口が軽い。
むしろ知らせるわけにはいかなかった。
街の酒場に繰り出して、泥酔して軽やかに口を滑らせる、なんて姿が簡単に想像できてしまう。
俺の脳裏には、口を滑らせそうな冒険者の顔が次々と浮かんでいた。
みんな気のいい奴らなんだが、こういう秘密の共有にはとことん向いていないんだよなぁ。




